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【ヘルステック業界ニュース8月号】米国プライマリーケア企業「One Medical」、「lora Health」を巨額買収を徹底考察!

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みなさん、こんにちは! 

今回は6月のビックニュースであるOne Medicalのlora Health買収の記事になります。

▼買収記事リンク

One Medicalの描く新たなプライマリーケア像はどのようなものなのか?、 One Medicalの時価総額の半分以上、約2,300億円($2.1b)もの大型M&Aの狙い、について考察していきます。

One Medicalとは?

はじめに、One Medicalについて改めてご紹介します。

One Medicalは会員向けのプライマリーケアのコンシェルジュサービスを提供している企業です。2007年に創業し、米国のサンフランシスコに本社を置いています。以前の記事 でも紹介していますので、ご確認ください。

85以上のクリニックを持っており、展開地域は西海岸だけでなく全米の様々な地域に渡ります。

▼One Medicalの展開地域
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画像はOne Medical Websiteより

One Medicalの3つの特徴

One medicalの最大の特徴は、“Member-ship based Primary care”を志向しているという点にあります。

後ほど詳しく説明しますが、いわゆる日本でイメージする医療機関が病気になったときに頼りにされるものですが、One Medicalは、いわば、顧客が健やかなる時も病める時もすべての面倒を見て、顧客のLTV(Life Time Value)向上を目指す企業です。

また、患者はその症状の度合いにあわせて、対面診療だけでなくオンライン診療でも受診することができるので、現在注目されているOMO(Online Merges with offline)を実現させている企業でもあります。

さらに、One Medicalはテクノロジーを活用して診療プロセス(予約〜会計)のデジタル化、診療記録管理プラットフォーム(EHR:Electronic Health Record)の構築を実現しています。

これらのシステムにより、事務負担削減によるオペレーション改善やスマホから自身の健康情報の閲覧ができるようになっており、サービスを受ける側(患者側)だけでなく、サービスを提供する側(医師やスタッフ)にとっても利便性の高いシステムとなっています。

One Medicalが成長している背景

米国は、医療保険に加入する際に必ずプライマリーケア医を指定する必要があったり、医師総数の約3分の1がプライマリーケア医であったりと、米国の医療にとってプライマリーケアは欠かせない存在です。

このような状況の米国にとって、テクノロジーを活用して、コスト削減(医療費削減)&患者のアウトカム最大化に貢献するOne Medicalのプライマリーケア・プラットフォームは、医療の持続可能性と健康状態の継続を実現する上で、最適なサービスとしてGoogleなど多くの企業に導入されています。

これからもOne Medicalのプライマリーケア・プラットフォームは多くの企業が導入していくことでしょう。

One Medicalの新しいプライマリーケアの姿

さて、One medicalの最大の特徴である“Member-ship based Primary care”を、日本やアジア諸国のプライマリーケアと比較し、どこの部分が大きく異なるかを考察していきます。

日本・アジアのプライマリーケア

日本やアジアでのプライマリーケアは、提供する側が医療法人(日本) or 企業(アジア)と異なるだけで、基本は診療所(クリニック)での対面診療を中心とした医療サービスを提供しています。最近は、オンライン診療で診察している診療所も増えています。

そのため、ビジネスモデルは、既に体調が悪化した患者に対して医療サービスを提供するということになります。オンライン診療という医療現場のDX化は進んでいますが、本質的な提供価値は、「体調に異変を感じた患者を治す」に尽きるでしょう。

One Medicalのサブスクリプション型プライマリーケアサービス

One medicalの“Member-ship based Primary care”は、日本・アジア型のプライマリーケアと大きく異なります。

たとえば、One MedicalのWebサイトの構造は日本のクリニック事業者とは大きく異なります。まず、ファーストビューに会員登録/ログインのボタンからはじまっています。

One Medical ウェブサイト
画像はOne Medical Websiteより

One medicalの顧客接点の起点は会員化であり、その会員(個人・法人)にプライマリーケアを提供する企業であるという発想が土台にあることがわかります。つまり、サブスクリプション型サービスに近いモデルとして、会員の健康におけるLTV最大化を目指しています。

その意味では、One Medicalを従来型のクリニック事業者と捉えるのではなく、テクノロジーや様々な機能(※)を活用して、会員の健康、Well-Beingを実現させる全くコンセプトの違うプライマリーケア企業と捉えることが本質と言えそうです。

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画像はOne Medical Websiteより

※One Medicalの提供する機能を従来型プライマリーケアと比較した図は以下がわかりやすいです。
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One Medicalの顧客の声「会員登録すれば、朝の珈琲を買うよりも早く、医師を選び、その日のアポイントをとることができる」という言葉がすべてを表していると思います。

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画像はOne Medical Websiteより

lora Healthの買収

続きまして、One Medicalが自身の時価総額の半分近くである大型投資をした lora Healthの買収について考察します。

lora Healthとは?

lora Healthは、One Medicalと同じくプライマリーケアサービスを提供する企業です。

One Medicalと同じく、広範囲にクリニックを展開しています。

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画像はIora Health Websiteより

lora Healthのサービスの特徴としては、ウェブサイト上の Design Especially for Adults(Medicare)の言葉からもわかる通り、①高齢者のwell-beingを追求していること、②ヘルスコーチという顧客とのリレーションシップ構築を担当するスタッフがいること、といった点が挙げられます。

ヘルスコーチに関してはウェブサイトで、They are hired for their ability to connect deeply with people because our Health Coaches are more than a friendly face. They are trusted resources, cheerleaders and partners in their patients’ care と説明されています。

医師や看護師などの医療職は別の存在として、顧客接点を専門に引き受けるプロフェッショナル職という位置付けだと想定されます。

▼lora Health 診療所
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顧客基盤の拡大による新たなリスクへの挑戦

さて、One Medicalのlora Health買収の狙いについて考察します。

買収の狙いとしては、①顧客基盤の拡大による新たなリスク負担とミッションの実現、②lora Healthの対高齢者向けプライマリーケアサービスのノウハウ獲得(ヘルスコーチの活用)の2つが考えられると思います。

1つ目の顧客基盤の拡大によるメリット享受はもちろんM&A戦略の王道ですが、今回の買収においては大切な目的だと思います。

今回の買収においては、更にその背景には、新たなリスク負担による新たなリスクへの挑戦という意味も含まれていると考えます。

One Medicalは米国最大のプライマリーケアサービスを目指すというミッションを持っていながら、実はこれまでのOne Medicalの基盤は、医療リスクが相対的に低い顧客を対象にしてきました。

彼らの主要顧客は、民間医療保険の会員=一般企業の従業員であり、生産年齢人口の人々とその子供を対象としてきました。この世代の方々は重い病気になることが高齢者に比べて少なく、つまり医療リスクが比較的低いといえます。言い方を変えると、相対的にリスクが低いサービスを提供していたということになります。

それは、One Medicalの目指す米国最大のプライマリーケアサービスとは、少し遠い場所にあるとも言えるでしょう。

今回、One Medicalは、lora Healthを買収することで、顧客基盤を高齢者(メディケア)にまで拡大することになります。

lora Healthは高齢者向けにプライマリーケアサービスを提供、つまり病気になる確率が高く、プライマリーケア時の診断の重要度が高いという、医療リスクの高い人たちにケアを提供しています。医療リスクの高い人たちに対してサービスを提供する方がリスクは大きいですよね。

そのため、今回の買収でlora Healthの顧客基盤を獲得したということは、One Medicalが医療リスクの負担拡大し、大きなリスク負担を背負うという決断をした新たな挑戦と見ることもできるわけです。

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買収を発表したプレスリリースでは、全世代(全人口)へのケア提供を強調していました。

自らのリスク度合いや責任範囲の拡大を取り会員基盤(顧客)にさらなる価値を提供する、メディケアなので自治体に対しても責任を持つというOne Medicalの覚悟・挑戦が読み取れます。

そして、その拡大したリスクを極力手当した上で適切なサービスを提供するために、②買収したlora Healthのビジネスノウハウが活きてくるわけです。ヘルスコーチなどのスタッフを活用して対高齢者向けプライマリーケアサービスの充実を図っていくことでしょう。

One Medicalは医療行為だけでなく、カウンセリングや医療保険の相談なども提供しているため、顧客とのリレーションシップ構築に長けたヘルスコーチを活用することで会員の満足度向上にさらに寄与できるのではないかと思っています。

今回はOne Medicalが大きな意思決定の背景をしっかり考察してみました!規模の拡大&ビジネスノウハウ活用→新たなリスク負担によるさらなる企業価値向上、という挑戦を今後も楽しみに見守りたいと思います。



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