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【全文掲載】『研究開発リーダー』寄稿「デジタルヘルスの市場動向と事業立ち上げのために大切なこと」

こんにちは、アジヘルさんこと田中大地です。AI医療機器スタートアップのアイリスで事業開発とアライアンスを管掌しています。

さて、僕も定期的に寄稿させていただいている最新テクノロジーを事業に活かすための月刊誌『研究開発リーダー』2023年1月号がヘルスケアDX総力特集ということで、僕も執筆依頼を頂き、「デジタルヘルスの市場動向と事業立ち上げのために大切なこと」という内容で寄稿いたしました。

 

なんと今回は、巻頭TOPで僕の文章が掲載されまして、大変嬉しく思います。

 

『研究開発リーダー』本誌は、こちらのURLから購入頂くか、図書館などで閲覧ください。

 

さて、僕の記事について二次転載の許可を頂いておりますので、本ブログにて、無料・全文公開したいと思います。異業種からはじめてデジタルヘルスで事業を立ち上げる方にもインプットの多い内容になっているかなと思いますので、ぜひご覧ください。

 

1.はじめに

はじめまして、アイリスの田中大地と申します。私自身、これまでリクルートやSMSにて多くの事業を立ち上げてきました。私自身、これまでリクルートやSMSにて多くの事業を立ち上げてきました。その後、アイリスの創業期メンバーとして、AI医療機器開発をゼロから取り組んでまいりました。当社の最初のプロダクト「nodoca®️」は、AI医療機器としての承認、保険適用を実現し、この12月より販売開始し、まさに事業立ち上げの最終フェーズに取り組んでいるところです。

今回は注目されているヘルスケアDXが今どうなっているのか、またその領域に異業種から参入するにあたって大事なことを自身の経験から考えていきたいと思います。

 

2.デジタルヘルスの市場動向

まずデジタルヘルスがなぜ面白いのか、この市場の特徴を見ていきましょう。3つのポイントがあると考えています。

 

2.1 市場が大きく,成長性が高いこと

まず着目すべきはその市場性です。

企業・個人どちらの立場であっても、身を置く市場がいかに大きいか、そして、そのマーケットが成長し続けるかという視点は非常に重要です。たとえば毎年20%市場成長するということは、極端な話、事業成長しなくとも売上が20%伸びていくマーケットだということもできます。

多くの産業でマーケットは人口に比例していきます。そして国内は人口の少子高齢化という避けられないトレンドがある中で、医療・介護・ヘルスケア産業のみが、ほとんど唯一マーケットそのものが拡大していく場所です。2018年度で既に40兆円という規模の医療費が、2040年度には70兆円という規模になるという予測が経済財政諮問会議で行われているように、高齢化とともに需要が拡大し続けていきます。

図2. 社会保障給付費の見通し(内閣府)

社会保障給付費の見通し(内閣府)

 

他の産業は、たとえば金融産業がFintechに、自動車産業がMaaSに置き換わり、テック部分が成長するようなことはあれど、金融産業や自動車産業全体としては人口減少に伴いマーケットはシュリンクしていき、産業そのものが成長していく構図にはなりません。

 

2-2.参入障壁が大きく守られた産業であること

医療ヘルスケア市場は、以下の3つの理由から極めて参入障壁が高いといえます。

  • 患者ニーズだけでなく、医療現場の課題や、規制・保険制度など理解をしておかないと、参入できない(してもうまくいかない)
  • 特に医療現場の課題は、非医療者ではなかなか理解しきれない
  • 本質的な価値を出すために医療機器や医薬品承認をとることも必要(特にこれからの新規事業はこうした傾向が強い。)

こうした参入障壁の高さは、特に異業種からの参入においては苦戦する理由にもなりますが、逆にいえば一度入ってしまえば非常に守られた産業だといえることができます。

事業をやるものであれば誰しもが「自社の事業領域にGoogle/リクルートが入ってきたらどうするの?」という問いと向き合ったことがあると思いますが、そういった企業が入ってくることが考えづらいほどに参入障壁が高いことがこの市場の特徴です。

 

2-3.事業機会が多いこと

最後に、事業機会が多いことが挙げられます。たとえば医療において、疾患の数は5000とも1万とも言われています。診断や治療は、疾患ごとに行われるため、それだけの数のニーズが存在するといえます。

一言で「がん」と言っても、胃がん、肺がん、乳がん…と分けられていき、更に同じ乳がんでも様々なタイプやステージが異なります。トリアージと問診、確定診断とスクリーニングでは区別されてサービスが求められています。

これを事業の観点で捉えれば、非常に競合しづらく、事業機会が多数あるということができるのです。

 

3.デジタルヘルスの3つのトレンド

こうした市場背景に加え、新型コロナの流行も重なり、デジタルヘルスへの注目は高まるばかりです。

ですが、実はこの領域に注目が集まったのは今回が始めてのものではなく、ここ20年近く繰り返し起こってきた流れです。筆者の整理では、3つの世代に分けることができると考えています。

デジタルヘルスのトレンドの歴史(著者作成)

 

最初の第1次ヘルスケアブームは、創薬・バイオ領域。そーせいグループやぺプチドリームなどの上場企業を生み出した背景にあります。しかし日本では、創薬・バイオの成功確度の低さに対して、資金提供をし続ける仕組みも足りず、ゾンビ化する企業が増えたという課題もありました。

次に2000年頃から、第2次ヘルスケアビジネスブームが勃興します。インターネットの発展とともに、旧来の医療・ヘルスケアの周辺領域の効率化を行うという世代です。代表例は、一時時価総額8兆円を超える巨大企業となったエムスリー社や、筆者の前職であるエス・エム・エス社です。出口の多くは莫大な予算を持つ製薬会社のマーケティング予算獲得、もしくは医療機関の人材紹介ビジネスでした。

そして、ここ数年起こっているのが、「デジタル医療」のトレンドです。AIやスマホという技術革新を背景に、医療の本丸である診断・治療そのものを革新していこうというトレンドです。ここに、空前のスタートアップブームも重なり、VC・CVCによる資金提供がされ続け、多数のスタートアップが誕生しています。

 

4.事業立ち上げに大切なこと:領域の第一人者になる

次にこうした成長著しい市場の中で、どう参入し、勝っていくかを考えます。当然ですが、こうしたら必ず勝てるという公式があるほど事業開発は簡単ではありません。

しかし、私が見る限り、成功者に共通する点があるとすれば、自社が事業展開する領域において顧客のことを誰よりも知っており、その領域の情報を発信し、第一人者としてプレゼンスをとっていることではないかと考えています。

ビジネスは「タイミング」こそすべて、という言葉もある通り、世の中が変わる大きなトレンドに乗り切れるかは極めて重要です。ゼロから波を作り出せる天才もいますが、多くの人にそこまでの才能はありませんし、それは再現性のあるビジネスとは言えません。

 

しかし、大波が来る前の予兆を察知し、その波が来た時に一番乗りで乗っかることはできます。そして、そうした情報は須く、その波が来る領域で第一人者の場所に集まるのです。その際に、顧客のニーズを知り尽くしていれば、ビジネスの立ち上げに繋げられるというわけです。

私のもとには日々事業開発に取り組む方から相談がきますが、今は「オンライン診療でビジネス参入したい」という相談が最も多いです。私からすれば、オンライン診療はほぼ雌雄は決したという感覚で、ここから参入するにはすっかり。いまオンライン診療のTOPであるメドレー社は2016年にはサービス開始をしています。(2015年には厚生労働省の事務連絡が発出されています)。メドレー社はロビイングも含めじっくりと市場を作り、コロナ流行という大波を掴むことに成功し一気に普及した、という格好で、もう6年も前に「オンライン診療といえばメドレー」という第一人者のポジションをとっている、故に今があるのです。

私自身もヘルスケアビジネスにおける事業開発の第一人者となるべく、日夜業界の情報収集を行っており、それらの内容を講演やブログ/SNSで発信を続けてきました。それを繰り返していると、自然と情報が集まってきて、特定のテーマに対しての風向きが変わったこと、波が来ていることに気づくようになり、次のビジネスの種を見つけられます。

 

5.ヘルスケア領域で第一人者になるための情報収集のコツ

さて第一人者になるためにも、まずは発信するための情報を収集する必要があります私も「どこで情報収集をしているのですか」、と聞かれることが非常に多いですが、2つ必ず抑えておきたいソースがあります。

ひとつめは、上場企業各社のIR資料です。今でこそ業界内の会食などで最先端/非公開の情報を得ることも多くなってきましたが、それでも上場企業各社のIRほど信頼性が高く有用な情報ソースはないと思っています。

時価総額何兆円、何千億円という企業たちが、今後の注力領域やトレンド、自社がどういった取り組みをしているのかを無償で公開しているというのに読まない手はありません。私はIR資料の熟読・動画視聴はもちろん、かつデジタルヘルスの上場企業のほぼ全ての会社に投資を行い、時間が取れる限り株主総会に足を運び現地で情報収集をしています。

IR資料は全社読み込むのが厳しければ、まずはエムスリー社、メドレー社、メディカルデータビジョン社、サスメド社だけでもチェックするとよいでしょう。特に示唆深い内容が多く、毎回学びが多い内容です。

 

もうひとつの重要なソースは、国(厚生労働省やPMDAなど)が発信している情報です。

医療は規制産業であり、マーケットに大きな変革が起こる際は、規制緩和/強化が背景になることがあります。規制は突然に変わるものではなく、いまどういった議論が進んでいるかは基本公開されています。つまり、変革の予兆=事業開発の機会を数年・数ヶ月前に教えてくれるというのです。これを抑えないわけにはいきません。

規制緩和の一端を担う規制改革推進会議は、その議事次第や各社が提出した資料も公開しています。1)(URLはソース欄にまとめて記載)

たとえば、2022年10月20日の議論では、業界団体であるJaDHA(⽇本デジタルヘルス・アライアンス)が、プログラム医療機器(SaMD)の承認・保険償還プロセスの早期化における議題などを持ち込んでいます。2)

こうした議論を受けて、2022年12月22日の規制改革推進会議・国家戦略特別区域諮問会議合同会議では岸田総理よりAIによる画像診断装置などのプログラム医療機器の規制見直しを検討するということで、日経新聞では1年以内での承認を目指すという報道がなされています。3) 4)

今後規制緩和が進み、AI医療やプログラム医療機器(SaMD)はますますの加速が進むでしょう。このように、政府のソースを見ておくと、実際に規制が緩和されるまでにこの変化の予兆を掴むことができるのです。

 

他にも、中医協の保険点数の議論は、その審議資料だけでなく、YouTubeで議論ののリアルタイム公開なども行われています。

たとえばDTxで国内初の承認・保険適用を実現したCureAppが保険適用に至るまでにどういった議論はインサイトフルで、こうした情報は必ず読み込んでおきたいところです。5) 6)

 

6.テーマ選定にあたって

ここまで、情報収集の仕方について話してきましたが、闇雲にインプットをしているだけでは、膨大な量の情報に溺れてしまい、インプットはするが事業を創り出す時間が取れないという本末転倒な状態になってしまいます。それを避けるために、アウトプットをする前提で、特定のテーマで仮説をもった上で関連するインプットを行うとよいでしょう。

そこで最後に、テーマ選びについて考えていきましょう。ここでは大切なことが2つあります。

 

6-1.マクロトレンドをしっかり掴む

テーマ選びでまず大切なことは、医療におけるマクロトレンドを抑えられているかという点です。マクロトレンドを抑えていると、「将来はこの形になる」というゴールイメージを持った上で、その形になったときに求められるプロダクトやサービスを逆算して考えられるためです。

たとえば「医療のロケーションの拡散と、自宅シフトの流れ」はこの数十年ずっと続いてきた医療領域におけるマクロトレンドです。

医療の歴史= ロケーション拡散の歴史(著者作成)

 

かつては血糖値の計測ですら、病院にしかない大型の設備が必要な時代がありましたが、いまでは医療機器の小型化やポータブル化が大きく進み、指先で計測すらできるようになっています。こうした技術革新を伴った形で、徐々に医療は診療所、そしてのその先の自宅へとシフトしていっていることがわかります。

そのマクロトレンドを意識して見てみると、昨今注目を浴びているテーマ、たとえばクラウド電子カルテや、オンライン診療、IoMD(Internet of Medica Device/医療AIやオンライン診療を前提として、インターネット接続された医療機器のこと)などのいずれもロケーション拡散と自宅シフトのトレンドにはまったサービスだということがわかるでしょう。

テーマを考えるにあたっては、こうした自宅シフトが進む中で今後必要となる/求められるプロダクト/サービスとは何なのかを考えていくとよいでしょう。

 

6-2.ユーザーニーズと自社の強みの双方から考える

上記のマクロトレンドを意識した上で,より具体の検討にあたっては,「誰に(ターゲット顧客)、何の価値を、どうやって提供するか」を探索していきます。

ユーザーニーズが大事と聞くと当たり前に聞こえる かもしれませんが,私が相談を受ける新規事業の9 割程は,「自社の強みはこうした技術力 etc があって,この強みを活かして、こうした事業ができるのではないか」という,いわゆるプロダクトアウト 型の発想に近い印象で、多くのケースにおいて、「その事業は誰に、何の価値を提供するのか?」という問いに答えられません。  

当然,ユーザーニーズがいかにあろうとも,自社の強みが全く活かせない領域だと,「なぜあなたがやるの か?」という問いに答えられませんので,「ユーザーニーズ ⇄ 自社の強み」を行ったり来たりしながらテーマを探索していく進め方がよいでしょう。  

ユーザーニーズの仮説を立てる際には、まず著者の作成した「デジタルヘルスの誰に何をどうやってMAP」を埋めてみてください。このMAPは入り口の入り口ですが,「誰に何をどうやって+稼ぎ方」を意識するとっかかりにはなるかと思います。

デジタルヘルスの誰に何をどうやってMAP

 

このプロセスを経て,ターゲット顧客と提供価値の 仮説の解像度が上がったら,まずは MVP(Minimum Viable Product)を出して,PMF(Product Market Fit)を目指すという進め方を実践していきます。ここからは『起業の科学』など実践書も多数あるので,本稿ではここまで としたいと思います 7)。

 

参考文献、ソース

1)内閣府, 規制改革推進会議 会議情報

2)内閣府, 第1回医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ  議事次第

3) 首相官邸, 規制改革推進会議・国家戦略特別区域諮問会議合同会議

4)日本経済新聞, 画像診断AI、1年以内に早期承認 普及へ新制度検討

5)厚生労働省, 2020年11月11日 中央社会保険医療協議会 総会 第468回議事録

6)医 薬 ・ 生 活 衛 生 局 医 療 機 器 審 査 管 理 課, 審議結果報告書

7)田所雅之『起業の科学 スタートアップサイエンス』(2017年)

 

4.5/5 (8)

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