皆様こんにちは、アジヘルさんこと田中大地です。
さて、1月8日にLINE社とエムスリー社が「LINEヘルスケア」という会社を設立する、というビッグニュースが飛び込んでまいりました。
時価総額1兆円企業同士による最強パートナーシップ
本ニュース「LINEがついにヘルスケア事業に参入」ということで多くのビジネスパーソンの間で話題になっていますが、組んだ相手がエムスリー社というのも注目されている方が多いのではないでしょうか?
僕の所に、医療ヘルスケア業界に縁がない方からも「すごいね!」「どうゆうこと?」みたいな連絡が来るので注目度が相当高いニュースだなと驚いております。
↓NewsPicksでも約2,000pickと、医療ヘルスケア界隈では屈指のpick数だなあと驚いております。
これ確かに!エムスリー史上一番名前が出たかもw https://t.co/kP70uxgJ0e
— 田中大地 / アジヘル@アイリスCOO (@healthcareITSG) January 8, 2019
「LINEがヘルスケアねえ、どれどれ」という方で本記事をご覧いただき、もしもまだエムスリー社を知らないという方は是非僕の過去記事(徹底分析エムスリー)をチェックしてみてください。
日本の臨床医の約9割にあたる27万人以上の医師会員を囲う医師向けプラットフォーム「m3.com」を運営し、設立からわずか15年で時価総額1兆円企業となったモンスター企業です。時価総額1兆円というと楽天やLINEが同じくらいとなりますので、その凄さがわかるかもしれません。
まずは「遠隔健康医療相談」で圧倒的No.1に
さて、話をLINEヘルスケアに戻します。
リリースによると「『LINE』を活⽤した医療に関する Q&A や遠隔健康医療相談、オンライン診療をはじめとするオンライン医療事業を展開してまいります」という記載だけでしたので、LINEヘルスケアの戦略と狙いについて考えてみたいと思います。
まず着目すべきは、出資比率がLINE 51%:エムスリー 49%となっていること。
エムスリー社はエムスリー社とSMS社で運営しているエムスリーキャリア(エムスリーが51%、SMSが49%)を始め、マイノリティ出資はほとんどやりませんので、まずはここに驚きました。
オンラインによる医療は大きく「遠隔健康医療相談」と「オンライン診療」の2つに分けられますが、LINEがマジョリティ、かつLINEの名を冠したことからも、LINEヘルスケアは前者からのスタートと考えてよいでしょう。
というのも、To Cダイレクトの「遠隔健康医療相談」は一般消費者のユーザ基盤をどれだけ抱えているかが戦略上のKSF(Key Success Factors=成功のための要因)になりますので、LINEの圧倒的な一般消費者を抑えているプラットフォームがダイレクトに戦略上の優位となります。
他方、オンラインで医療行為を行う「オンライン診療」はあくまで対面診療の補完という位置づけで、現在の所、オンラインによる初診は不可となっています。
つまり、どれだけ一般ユーザを囲っていても、すぐにオンライン診療に誘導ができず、まずは医療機関へ訪問してもらう必要があります。つまりLINEの強みは、短期的には活かしづらいのです。
なお、現在「遠隔健康医療相談」の領域においては、エムスリー社の「Ask Doctors」や同じく医師向けサイトを運営するメドピア子会社の「first call」など多くの企業が参入していますが、現在の所、To C向けで圧倒的なポジションをとっているサービスはありません。実際、first callはじめ多くの既存サービスは企業健保や人事労務に営業する法人向けサービスという登り方をしています。
LINEヘルスケアはまずTo C向けの「遠隔健康医療相談」でNo.1を取りに行くことが最初に目指す山になるでしょう。
鍵は「オンライン」と「オフライン」の組み合わせ
ただし、まだ「オンラインで健康や医療に関して相談をする」という習慣が日本には根付いていないため、既存の参入企業が直接ダメージを受ける、ということはあまり起こらなそうです。
むしろ、何か不安に思ったら「まずはオンラインで医療者に相談しよう」という文化をLINEが牽引することで、市場全体の拡大に資するという効果が大きいと考えます。
潜在的なニーズが大きい領域ですので、LINE一強になるというよりは、「小児科オンライン」のように診療科などで差別化・独自化をすることで、他の企業にもメリットが大きくなるでしょう。
また、長期的には、オンラインとオフラインの医療の最適な組み合わせが重要になります。「まずはオンラインで相談、必要に応じて医療機関へ来訪」という世界です。
この文化が広がれば、本来医療機関に来る必要がない患者をスクリーニングできるので、医療現場の負担が減ることにも繋がるでしょう。
ざっと図にまとめてみます。
LINEの圧倒的なユーザ向けに、まずはチャットや遠隔で相談ができる機能を提供し、そこで解決しなければ、そのままクリニック予約という流れです。
現在は「遠隔健康医療相談」「医療機関予約」「オンライン診療」「処方箋宅配」といったサービスが別会社によって提供され、シームレスに繋がっていなかったことは大きな課題です。これらが一気通貫で繋がる世界こそ、LINEヘルスケアが見ている新しい医療の形だと考えられます。
(個人的には、オンラインの医療相談内容や予約時の問診内容が、自動でエムスリーのクラウド電カル「エムスリーデジカル」に情報連携する世界も見たいです!)
追記(2019/01/26): NewsPicksのオリジナル記事でLINEヘルスケアの取締役に就任される有瀬和徳氏のインタビューが有り、「エムスリーデジカルとの連携」の構想があることが明示されておりました!楽しみ!
LINEの持つ強大なユーザ基盤を入り口に、エムスリーの持つ医師会員、薬剤師会員基盤、そして医療ビジネスの構造理解を組み合わせることで、オンラインとオフラインを組み合わせた医療の再構築を楽しみに続報を待ちたいと思います。
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