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【全文掲載】『研究開発リーダー』寄稿「2024年のデジタルヘルスの注目テーマと異業種参入の狙い目」

こんにちは、アジヘルさんこと田中大地です。AI医療機器スタートアップのアイリスで事業開発を管掌しています。

さて、僕も定期的に寄稿させていただいている最新テクノロジーを事業に活かすための月刊誌『研究開発リーダー』2024年3月号に執筆依頼を頂き、「2024年のデジタルヘルスの注目テーマと異業種参入の狙い目」という内容で寄稿いたしました。

『研究開発リーダー』本誌は、こちらのURLから購入頂くか、図書館などで閲覧ください。

さて、僕の記事について二次転載の許可を頂いておりますので、本ブログにて、無料・全文公開したいと思います。異業種からはじめてデジタルヘルスで事業を立ち上げる方にもインプットの多い内容になっているかなと思いますので、ぜひご覧ください。

1 はじめに

はじめまして、アイリスの田中大地と申します。
私はこれまでリクルートや SMS にて多くの事業の立ち上げを経験してきました。その後、アイリスの一人目の社員として創業期に入社し、AI 医療機器開発をゼロから取り組んでまいりました。当社が 5 年の研究開発を経てローンチした最初のプロダクト「nodoca®」は、AI 医療機器としての承認、保険適用を実現し、2022年 12 月より販売開始し、まさに事業立ち上げの最終フェーズに取り組んでいるところです。

本記事では、そうした事業立ち上げの経験をもとに、注目の集まっているデジタルヘルスの領域の立ち上げのポイント、特に2024年に注目されるテーマ、異業種から参入するにあたって重要なことをお伝えしていきたいと思います。個別具体について深掘りして書こうとすると 1 冊の本が書けてしまいますので、本稿ではエッセンスをお伝えしていければと思います。

2 事業開発はタイミングが命

事業開発は波乗りと一緒です。ビジネスの成否を決めるのはタイミングが何よりも重要です。大波がくる予兆をしっかり掴み取るためにも情報収集は必須です。また、最先端の情報とは、領域の第一人者に須く集まるものであり、第一人者になるために、発信をすることも大切だと考えています。1)

さて、特に医療領域で情報収集するにあたってはかならず押さえておくべきソースのひとつに日本の規制改革推進会議のアジェンダがあります。
これらは日本の未来の大きな方向性、変化の種が記載されています。

2023年6月に発表された規制改革推進会議答申で挙げられている粒のうち、約半数が医療関連領域であることを見ても、いかにこの領域の注目度が高いことがわかるでしょう。
ここに書いてあることはかなり高い確度で国策として大きく推進することであり、変化が起きることです。波を人工的に起こすぞ、と宣言してくれているのですからウォッチしない手はありません。

これらの中でも、2024年に特に意識しておきたい重要テーマは、①プログラム医療機器(SaMD)と、②医師の働き方改革であると考えています。

図1 規制改革推進に関する答申(概要)資料を筆者編集 2)

3 2024年注目テーマ①:SaMD(プログラム医療機器)

2022年末に、岸田総理から医療 AI/SaMD を日本の次の産業とするため大幅な規制緩和を行うという発言があり、実際にこれまでかかっていた医療機器の承認プロセスが大幅に短縮することが発表されました。3)
なぜ医療 AI/SaMD が国策としてもここまで注目が集まっているのでしょうか。

それは、特に地方における医療供給の不足という大きな社会課題をテクノロジーによって解決できる可能性を秘めていることと同時に、次の輸出産業としてグローバルで勝てる可能性があるためです。
日本の医療機器は年 3 兆円を超える巨大産業で、日本は米国に次ぎ世界二位の大きな市場です。しかしながら、内視鏡以外の領域,特に治療機器においては、海外の医療機器メーカーにシェアをとらえており、大幅な輸入超過の状態が続いています。

こうした重要な産業において、なかなか攻めの一手が見つかっていませんでしたが、ここに来て流れが変わってきています。
それが、CureApp、アイリス、サスメドといったスタートアップによるデジタル医療機器の薬事承認です。

長い間日本発の新医療機器は年に数件しか生まれていなかった中、こうしたデジタル医療機器の領域で毎年のように、新医療機器が薬事承認や保険適用される事例が誕生しています。
日本には、世界でも類を見ない対象範囲の広い公的保険制度があります。もちろん医療の現場で価値がある前提ですが、ある種、こうした保険制度を通じて、国策としてAI医療やプログラム医療機器を広めていく、という戦略がとれるのです。

ヘルスケア領域で事業開発を行うのであれば、国がここまで注力していくことを明確にしている領域はやはり今最も注目のテーマであることは間違いないでしょう。

4 非医療機器から始めるという戦略オプション

ただし、特に異業種の企業にとって、医療機器事業に乗り出すということは非常に難易度の高い意思決定です。単純に難しそう、というだけで敬遠もされますし(ゆえに競合が少ないので)、体制構築や治験といったコストも莫大にかかります。

こうした状況を踏まえて、ひとつの戦略オプションを提案します。
将来の医療機器化を見据えつつも、あえて非医療機器=ヘルスケアアプリとしてはじめるという発想です。

医療機器を前提とした場合、未承認医療機器の広告規制や、医療機器の患者向け広告規制4)などの厳しい規制が存在し、プログラム医療機器において特に重要なステークホルダーである患者さんが使いたいものとなっているかの検証に課題もあります。事業視点では、PMF(Product Market Fit)しているかわからないものを長い時間・コストをかけて開発しなければならないという難しさが存在します。

そうした不確実性が存在する中、先に述べたような大きな投資を行う意思決定はよほど強い思いを持ったリーダーがいないと難しいでしょう。

そこで、まずは比較的簡単にローンチできるヘルスケアアプリからはじめ、実際に患者に使ってもらえるのかを検証するフィージビリティスタディを経て、確信が持てたら医療機器化を検討するという進め方をとるという提案です。

たとえば、メンタルヘルス領域に取り組む Awarefy というスタートアップは、まずは認知行動療法(CBT)を用いた患者向けセルフケアアプリ「Awarefy」というサービスを通じて患者向けにスティックネスなサービスがどうしたらできるのか検証から始め、そこを乗り越えれば医療機器化を検討するという戦略をとっています。

また医療機器にするとしても、最初は「診断」を行わない医療機器として提供するという手もあります。こうすることによって、疾患名こそ言えないものの、治験などの工数・費用・難易度も高いプロセスを回避しながら、臨床で使用開始できるという特性もあります。

iSurgery社というAI医療機器スタートアップでは骨密度計測ツールという位置付けで2023年の4月の薬事承認から、健診のオプションとして導入を進め、わずか半年で1万検査を達成したというリリースを発出しています。5)

こうした方針も含め、プログラム医療機器は最初期の戦略策定が極めて重要です。後で躓かないように先に知見を持つ人と戦略を練り切り、事業開発の成功確度を高めていきましょう。支援が必要であれば、私宛にSNSなどでお気軽にご相談ください。

5 2024年注目テーマ②:医師の働き方改革と医療DX

さて、2024年に大きく動くもうひとつのテーマは「医師の働き方改革」です。
まさに「働き方改革」という言葉も国が主導して、規制強化を行い、大企業のみならずスタートアップまでも労働環境が大きく変わった実感は読者の皆様もお持ちではないでしょうか。ついに、この「働き方改革」が医師も対象となるという法改正が2024年4月より開始されます。

これまでの医療(特に病院)は医師や医療者のボランタリー精神に支えられてきました。その結果、医師の41.8%が、週あたり平均労働時間が60時間を超えるという過重労働になっておりました。こういった状況から医師の健康問題はもちろん、医療の質の観点でも懸念がありました。たとえば当直明けでまともな睡眠もとれない状態で行う手術と、しっかり休息をとったときとの質が同じということはないでしょう。

こうした状況を改善し、医療を持続可能にしていくためにも、医師の時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用が開始されます。
いよいよ本格的に、テックの導入とタスクシフティングによって、医師の業務負荷の削減が急務となっていくわけです。

先のSaMDもこのひとつではありますが、ついに医療にもDX待ったなしの時代に突入します。医療DXの例について述べていくと枚挙ないため、ここでは別の機会に譲りますが、参考までに私が以前作成した患者の診療フローごとの医療DXのプレイヤーについてまとめてみたマップを貼っておきますので、ご参考ください。

こうした流れにのって、石川県七尾市のITを積極活用する医療機関として有名な恵寿総合病院とユビー社は、生成AIを活用した医師の働き方改革の実証実験を行い、医師の退院時サマリー作成業務では業務時間を最大1/3に削減できるなどの成果が出ています。6)

医師の働き方改革と、AIの活用は相性がよいところですが、こうしたデジタルヘルス領域の積極的な活動を行う業界団体「日本デジタルヘルスアライアンス」(通称:JaDHA)では、医療・ヘルスケア領域における生成AIを活用したガイドラインも発出しているので、ぜひ参考にしてください。 7)

さて、本稿では、異業種からデジタルヘルス領域へ参入するにあたって、特に2024年に大きく潮目の変わるテーマとともに紹介させていただきました。事業開発をする皆様にとって参考になれば幸いです。

参考文献・ソース

  1. このあたりは、以前本誌に書いた記事(2023年1月号)に詳しいため、詳細はそちらの号に譲ります。許可をいただき、拙ブログ「アジヘルのヘルスケアビジネス考察日記」転載(https://healthcareit.jp/?p=7445)しておりますで、よろしければ合わせてご覧ください。
  2. 内閣府:「規制改革推進に関する答申」(概要)~転換期におけるイノベーション・成長の起点~
  3. 厚生労働省:プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2ーSaMDの更なる実用化促進と国際展開の推進に向けてー
  4. 治療アプリにおいては、各社よりこうした課題意識が提起され、一般向け広告規制の規制緩和が2023年度中に予定されています。
    日本経済新聞:治療アプリ,ネット広告解禁 成長分野で規制緩和
  5. iSurgery株式会社:販売開始後6ヶ月。累計10,000検査を突破しました。
  6. ユビー株式会社:恵寿総合病院とUbie、生成AIを活用した「医師の働き方改革」の実証実験を実施
  7. 日本総合研究所:ヘルスケア領域に特化した生成AI活用のガイドラインを策定~生成AIによるサービスを生活者が安心して利用できる基盤づくり~
5/5 (3)

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