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2022年映画、ベスト。理解しあえない人と人との間でわたしたちは。

2022年映画ベスト

みなさま、もはや2月に入ってしまい、だいぶ遅くなってしまいましたが、新年あけましておめでとうございます。(や、昨年末から準備していたのですが、推敲に時間がかかり今になってしまった)

大晦日は霊峰白山で清めてきました。

 

写真は不可だったので撮れてないのですが、不動明王と向き合ってきました。

僕自身、特段信心深いわけではないですが、ひとり向き合っていると当てられるものがあります。不動明王のお守りもゲットしたので、無敵になりました。

 

2022年を振り返る。

2022年は、仕事面ではひとつの節目を迎えることができました。

5年間開発してきたAI医療機器の承認、保険適用、そして販売開始というところを達成し、ようやく世の中に価値を出せるフェーズがやってきました。

 

正直、何度だってくじけそうになるくらいのタフな5年間でした。

昨年頭に書いた2021年映画ベストの記事にも書きましたが、特に2021年後半から2022年の冒頭はずっと苦しい思いをしていました。

そんなときに支えてくれたり、また焚きつけれてくれた周囲の人々に感謝を、そして折れずにやりきった自分を誇りに思っています。

 

僕自身「後悔する」ということは長い間ありませんが、過去に遡ってその経験があるとすれば、「途中で逃げたこと/やめてしまったこと」でした。

当時の経験を15年ほど経った今もひきづっているくらいなので、どんなしんどくても、それだけは避けたいという思いで続けてこれたなという部分があります。

どうしてもここまではというところまで辿り着き、まずはひとつの成果を残すことができたかなと思っています。

 

ようやくセールス&マーケティングフェーズに入り、僕自身も毎週のように顧客訪問を繰り返しています。

先日のNHKやモーサテの放映もご覧いただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、顧客から、本当に凄いものを作ったね、という声も多く頂きやりきってよかったなという思いを強くしています。

しっかり製品を広げ切れるように引き続き全力を尽くしていきたいと思います。

 

また、もう少し大局の話でいうと、医療機器のセールス&マーケティングはDXが全く進んでおらず、アイリスがトラディショナルなやり方+デジタルを組み合わせたDX最先端の事例も作り出せるのではと思っています。

年3兆円ある、医療機器市場のDXができるという意味でも、会社というフィールドを使って、面白い取り組みを仕掛けていきたいです。

過去に培った得意分野やコアスキルも活かしつつ、しかし既存のやり方だけに固執せず、常にやったことないことに挑戦する、という自分らしいやり方がようやく本領発揮できるタイミングが来ると思っているので、やっていくぞ。

 

更に、先日のこちらのブログ記事でも書きましたが、医療AIやSaMDはまさに今これからが本気で面白くなるタイミングだと確信しています。

 

事業を超えた産業を創る、という大きなミッションを実現していきたいですし、自社だけでなんとかできる話ではないと思っています。

当社のミッションである「みんなで共創できる、ひらかれた医療をつくる」という通り、共創に力を入れていくため、ミッションを語り、仲間集めに力を入れていきます。

 

そういった大局観も持ちつつ、個人としては、フィジカルな「場を作る」ということに考えを馳せることが多くありました。

映画館Strangerという誕生も、個人的にも本の読める店 fuzkueというお店と関わりはじめたこと、またいきつけのバーができ、作るところに意識的であるお店の人たちの考えにも多く触れました。

こうした思いを共感する人が集まる場作りについても、長期ビジョンを少しずつ形にするため動きはじめていけたらなと思います。

 

 

2022年、映画ベスト

さて、相変わらずイントロが長くなりましたが、本ブログはタイトルの通り、そして毎年恒例のマイ2022年映画ベスト10についての記事です。

僕の人生にとって大事なことはほとんどスクリーンを通して学んだなと思いますし、結局最後はカルチャーだ、という確信も高まってきました。

 

引き続き、映画こそを渇望し、映画と向き合っていきたいと思います。

 

さて、2022年に観た映画は合計113本でした。ほぼすべて劇場鑑賞。2年連続で100本超えペースで観ることができており、とても嬉しいです。

 

日本初公開と思われる新作から10本。いつも通り、愛してやまなかった順。

 

わたし達はおとな(加藤拓也、日本)

トップガン・マーヴェリック(ジョセフ・コジンスキー、アメリカ)

アネット(レオス・カラックス、フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作)

ケイコ、目を澄ませて(三宅唱、日本)

トラララ(アルノー&ジャン=マリー・ラリユー、フランス)

アザー・ミュージック(プロマ・バスー、 ロバート・ハッチ・ミラー、アメリカ)

ドント・ウォーリー・ダーリン(オリヴィア・ワイルド、アメリカ)

神は見返りを求める(吉田恵輔、日本)

リコリス・ピザ(ポール・トーマス・アンダーソン、アメリカ)

コーダ あいのうた(シアン・ヘダー、アメリカ・フランス・カナダ合作)

パシフィクション(アルベルト・セラ、フランス・スペイン・ドイツ・ポルトガル合作)

毎年10本を選択することにめちゃくちゃ悩むのですが、今年はわりとすんなり10本はこれだな〜とバシッと決まった感じです。

(追記:あとで数えてみたら11本ありました。笑)

 

唯一超迷ったのがTHE FIRST SLAM DUNKで、順位決められん、とうんうん唸った結果、アニメ映画の新時代を創った、これは別軸だということでベスト10には入れずとしました。

 

一本ずつコメントしていきます。

まず1位は「わたし達はおとな」。

僕以外ランキング入れてる人をほとんど見ないのですが、極私的な話をすれば、2022年のカルチャー史において最も記憶に強く残る出来事は、加藤拓也という才能に出会えたことだと断言できます。

 

どうしても理解しあえない人が存在するということ、共感ができない他者が存在することを私たちは映画から学んできました。

 

そうした前提においても、「言葉とは想像力を運ぶ乗り物です」と、濱口竜介が『親密さ』の中で語らせたように、それでもなんとか言葉を尽くし、他者を理解しよう/されようとすることこそが人生です。

濱口映画に出てくる登場人物たちは、言葉によって時に人を傷つけ/傷つけられながらも、それでもどうにか相手のことを理解しようと必死で生きる人たちの物語でした。

他者への、引いては世界への信頼が濱口映画の原点です。

 

他方で、加藤拓也の作品に登場する人間たちは濱口映画のそれの対局にいるように思います。

コミュニケーション力が高く「表層的にいい人」に見せることに長け、「他者を理解しようとするフリ」をする人間たちが、ただ無自覚に言葉によって傷つけあう、そんな人たちの振る舞いを焼き付けた「わたし達はおとな」はとてつもない映画体験でした。

 

他者は「期待してはならない存在」であり、最後はひとりで生きるしかない、という信頼のなさが加藤作品のテーマに思えます。

45歳の濱口竜介と、29歳の加藤拓也、生きてきた時代性ということもあるかもしれません。

この天才2人がいることが日本映画の未来にとって今もっとも楽しみだ、と思っています。

 

 

また、『わたし達はおとな』をはじめ、『よだかの片想い』や『そばかす』といった素晴らしい作品を輩出しつづけている「(not)HEROINE MOVIES」は今後も確実に追いかけ続けたいと思っています。

このプロジェクトで配給を務める方は前々職の映画会社時代に一緒に働いていた方であり、彼が立ち上げたラビットハウスは、今年は上述の3本に加え、『グリーバレット』など素晴らしい作品を配給してくれており、今最も期待の配給会社のひとつだなと思っています。ぜひご注目ください。

 

2位は『トップガン・マーヴェリック』

さいっこうでした。

どの世界においても、年齢を重ね、順調に自分の実力や立場も上がっていくことに成功すると、何事も「それなりに力を入れずにやれてしまう」感覚が生まれていくことに気づきます。

その感覚に慣れてしまうと、今度は、本当はやるべきときに、発射する・立ち上がることができなくなってしまいます。

そんな中、トム・クルーズ演ずるマーヴェリックの振る舞いに、勇気ばっかりもらいましたし、こうあらないとあかん、と思います。やっぱり僕はマーヴェリックのような大人に憧れます。

 

3位は『アネット』。レオス・カラックス待望の新作、かつ最高傑作だよなと思ってます。ほとんどの映画好き学生がそうであるように、学生の当時はたいそう憧れたわけですが、やっぱいくつになってもかっこいいよカラックス…!!

あのとんでもない冒頭から呼吸することも忘れて、過呼吸になりそうにながら、ずっとスクリーンに没頭してしまいました。

 

4位は『ケイコ、目を澄ませて』

2022年はコーダで始まり、ケイコで締める。ドラマではsilentなどもあり、聴覚障がいがかなり取り上げられたなという印象があります。

その結果、社会の認知、受容性が大きく変わるわけで、やはり映画やコンテンツの持つパワーはすごいよな、と思わされるわけです。

 

『ケイコ、目を澄ませて』は、映画館に入る前と出た後で、街の風景や見え方が全く変わるというとてつもない映画体験をもたらしてくれる作品でした。

 

映画館で観るしかない、というか、もはや映画館で観ないなら下手にプライムビデオやNetflixなどで観ない方がいい映画というものは確実にあります。(僕にとっては全ての映画がそうなのですが笑)。

それは、コーダやsilentを観て、聴覚障がいを「わかった気になってしまう」ように、インスタントに触れることで「映画をわかった気になってしまう」ようなものです。『ケイコ、目を澄ませて』は、わかった気になることと徹底的に抗います。

『ケイコ、目を澄ませて』は間違いなく、映画館で観るために生まれた作品です。ただ五感を集中させて、音に耳を、ケイコの表情に目を澄ませて向き合ってほしい、そんな一作でした。

まだ上映中かなと思うので、未見の方はぜひご覧ください。

 

さて、テーマとしては「ケイコ」と類似している『コーダ あいのうた』も映画館で観ないとその魅力のほとんどが失われてしまう傑作でした。

映画としては演出含め正直稚拙さが残るといった印象の本作ですが、しかし、ある一瞬の、それは全く世界から音が消えるあの一瞬のとてつもなさが圧倒的に忘れがたい作品でした。

そのワンシーンにおいて、全観客が、耳の聞こえない人について、わかったつもりだった・理解していたつもりだったが、全く理解していなかったことに気付かされます。

それは「ケイコ」も同様で、僕たちは他者のことをわかったつもり、に簡単になりすぎているのです。

 

『わたし達はおとな』でも触れましたが、決して理解できない他者が存在すること、は2022年の映画を通したテーマだったと思います。

 

『トラララ』

母親が埃のかぶったDJ機材の布を外してからの「パラダイス」から、ずっと魔法のような時間でした。いまだにメロディをくちずさみます。

渋谷SKYで映画を鑑賞するという不思議な体験も含めとても忘れがたい映画体験でした。でもラリユー兄弟の映画、ふつうに劇場で観たいよ〜。

 

『アザーミュージック』

先に書いたように、「何かを好きであること」を全肯定する場のあり方を真剣に考えていた時に観たのでぶっ刺さり、後半ずっと泣き続けました。Thiis Must Be The Place、ここがまさにその場所、という言葉を幾度となく思い出しました。

まさにアザーミュージックのような映画館、Strangerにて鑑賞できたことが、一層その思いを強くしました。

 

『ドント・ウォーリー・ダーリン』

世間からの評価がなんでそんなに高くないかわからないほど、オーウェルとディックをmixしたようなガチンコ世界線でSF好きの僕にはたまらない一作でした。今年一番おもしれえええと思いながら観た映画。

 

『神は見返りを求める』

Youtuberでなくとも、スタートアップ界隈にいると、ある種の人たちは意識的に「付き合う人を変える」=階層が上がるごとに、これまで付き合ってきた人を切っていくという営みを意識的にやられている方に結構出会います。

世間が思うほど、スタートアップの中の人はただワイワイしているだけではない「キャリア戦略」に、僕自身は正直辟易としていて、まさにこの映画のYuri-Chanの振る舞いはそれを見ているような感覚でした。

僕はとっとと階層上げゲームから脱却して、大好きな友人たちとパーティーだけしていたいなあと観ながら思っていました。

 

『リコリス・ピザ』

PTAってこんなパーティー映画撮れるんだと感動したな。女の子が街を走る映画は全部好きです。

 

『パシフィクション』

例えるなら海外一人旅で初めて訪れた都市、人通りの少ない道にある退廃的な地下のクラブになぜか導かれ、現地人しかいない中でミニマルテクノをずっと聴いて踊っているような映画。

周囲の人物は誰も信頼できず、反復する音の中で、しかし少しずつ体内のアルコール濃度は高まって行く。もしかしたら、今飲んでいるこの液体も何か混ぜられているのではないか。

166分、登場人物の誰も信じられない、不穏な空気を維持し続けるという驚異的なフィルムでした。2022年のカイエ誌1位。

 

2022年アジデミー賞

主演女優賞は、『ケイコ、目を澄ませて』『神を見返りを求める』とベスト10に2本ランクインで、振れ幅含め圧倒的な演技を見せ付けてくれた岸井ゆきの一択でしょう。ケイコ!ケイコ!ケイコ!

主演男優賞は、Mr.マーヴェリックことトム・クルーズ!トムの兄貴、一生ついてきます!!

助演女優賞は、『トラララ』のメラリー・ティエリー、『グリーンナイト』のアリシア・ヴィキャンデル、もう優劣とか決められません。どっちも好きで好きで仕方ない。

助演男優賞は、縦横無尽の活躍とスクリーンに登場した瞬間場を持ってく気持ち悪さの中島歩。はじめて意識した『偶然と想像』から『よだかの片想い』『愛なのに』など大活躍。先日は『岸辺露伴は動かない』にも出てきてまじ変態っぽくて最高でした。

新人賞は、『あのこと』のアナマリヌ・バルトロメイ。中絶が認められない60年代のキリスト教国において望まぬ妊娠をしてしまった女学生の様をやりきる圧倒的な演技、おぼこさとセクシーさの不思議な両立に釘付けになりました。

 

2022年はゴダールが自死し、青山真治も亡くなりました。

映画は、あるいは人生とは、こんなにも自由に、やりたいようにやっていいんだ、ということを体現し、僕に教えてくれた人を2人を同年に失うということに少なからず思うことがありました。

生きるために大切なことのほとんどを教えてくれた映画と共に、2023年もやっていこうと思います。引き続きこんな僕ですが、よろしくお願いします。

 

▼昨年までの映画ベストはこちら(一部過去ブログにリンクします。)

オールタイムベスト

2021年ベスト

2020年ベスト

2019年ベスト

2018年ベスト

2007年ベスト

2006年ベスト

 

▼映画以外の2022ベストはこちら

 

▼2022年に触れたカルチャー全作品の星付はこちら

https://spotty-adjustment-586.notion.site/Cultures-Movies-Books-Music-Art-Comics-5dec167d85124e45a6973f999bcc20a2

 

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