この記事をシェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

IDATEN制度は医療機器スタートアップの光明となるか

IDATEN制度本格始動!

皆様こんにちは、アジヘルさんです。

今日は4月、5月と続けてエルピクセル社、サイバネット社からリリースが出たIDATEN制度を活用したAI医療機器の開発について紹介するとともに、医療機器スタートアップがなぜ難しいのか、IDATEN制度はその課題解決になるか、ということを考えてみたいと思います。

▼エルピクセル:医療機器の特性に応じた変更計画の事前確認制度(IDATEN制度)を活用し、EIRL Chest Noduleの変更計画確認申請を実施
https://lpixel.net/news/press-release/2022/10553/

▼サイバネット:AIを搭載した大腸内視鏡画像診断支援プログラム、薬機法の新制度IDATEN変更計画承認取得のお知らせ
https://www.cybernet.jp/company/about/news/press/2022/20220512.html

少し専門的な話なので、できる限り医療機器業界外の人にもわかりやすい平易な表現で書いてみたいと思いますので、ちょっと業界内の人には表現が適切じゃないケースもあるかもですが、ご容赦ください〜。

IDATEN制度とは

まず、IDATEN制度について簡単に説明します。詳しくは以下の厚労省ページをご参照ください。

IDATEN制度(=Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice)「医療機器の特性に応じた変更計画の事前確認制度」は、医療機器の特性に応じ将来改良が見込まれている医療機器について、その改良計画自体を承認する制度として、令和2年に厚生労働省医薬・生活衛生局により開始されました。

💡「医療機器の変更計画の確認申請の取扱いについて」厚生労働省医薬・生活衛生局発行(薬生機審発0831第14号 令和2年8月31日)
https://www.pmda.go.jp/files/000236900.pdf

前提、医療機器は許認可事業であり、プロダクトを販売するために国(PMDA)の許認可が必要となります。いわゆる「医療機器承認・認証」というリリースを見たことある方も多いと思います。

また、一度世に出したプロダクトを変更する際にも許認可が必要なわけです。変更による性能に影響がある場合は「一変(一部変更届)」、一方、有効性・安全性に影響のない微細な変更の場合は「届出」というプロセスになります。前者の場合は再度審査が必要になり、期間は内容によって異なるのですが、審査に数カ月間かかるということもままあります。後者の場合は、製品の製造販売責任者がその変更の責任を負う形で、PMDAに変更内容を届出のみすれば、即日変更が可能になります。

これは医療機器業界にいると当たり前の常識なのですが、他の業界の方からだとかなり驚かれる内容になります。つまり、一変対象になった場合、自社のプロダクトにもかかわらず、変更を行いたい時は国の審査を受けなければならず、数カ月間も待たなければいけないということなのです。(その前の書類仕事なども含めると半年規模になりえます)

これは、医薬品・医療機器という特性上、その性能や安全性がどうしても人の命に直接関係があるための制度です。しかし、お察しの通り、いわゆるインターネット的なプロダクト開発の方法とは大きく異なっており、昨今のデジタルヘルス・ヘルステックとの相性はめちゃくちゃ悪いとも言えるでしょう。

「起業の科学」の例に出さずとも、いまのスタートアップの立ち上げ方は、まずはMVP(=Minimum Viable Product)を出して、顧客に使ってもらって、フィードバックをもらってPMF(=Product Market Fit)を目指す、という当たり前の開発方法がとれないという難しさがあります。

さて、一般論ですが、AI医療機器はそのAIという特性上、学習するデータの枚数が多ければ多いほど性能は向上するものです。こうしてAIが精度向上した場合、性能に影響するものですので、これは「一変」対象にあたるものです。

つまりAIの精度向上には、都度審査を経ねばならず、使われれば使われるほど勝手に進化していく、という世間のAIに対するイメージはこと医療機器においては違うものでした。

しかし、今回のIDATEN制度を活用すれば、事前に性能向上の計画の承認を得ておけば、「届出」、すなわち即日変更ができるようになります。これまではIDATEN制度自体はあったものの、適応対象のサービスがなかったのですが、今回4月にエルピクセル、5月にサイバネットが適応対象となりました。

これは、AIをはじめとしたデジタル医療機器をやっている人たちにとってはめっちゃいいニュースです。

この方式をうまく使えれば、将来の変更コストが下がるので、まずは世の中に出せる最低限の基準を満たした上で、顧客に使ってもらって後ほど性能向上をするというアプローチに近づくことができると思います。

もちろん安全性のリスクがあるという話は論外ですし、有効性も既存の検査法・治療法にどのシーンでも及んでいないというのでは承認はされづらいでしょうが、それでも将来の成長を見込んで、まずは出せる範囲で出すというアプローチがとりやすくなります。

医療機器スタートアップの事業化はなぜ難しいか

僕が、医療機器スタートアップの事業化の難易度が他のスタートアップと比べ難しいと思っている理由のひとつとして、薬機法における広告規制が極めて大きいと思っています。この広告規制のおかげで、そもそも医療機器承認をとれるまで、プロダクトを「医師に見せることもNG」なんて厳しい法律があるんですね。

厳しく解釈すれば、顧客にヒアリングをしても、自分たちで開発しているプロダクトを見せることすら禁じられているという状況です。MVPという概念から大きく外れていることは想像に難くない。

意思決定はすべて顧客の声にもとづいてせよ、くらいの顧客志向をリクルートはじめ叩き込まれた身としては、「医療機器を0から作ることの何が一番難しいか」という問いに対しては、顧客との距離が存在する中開発を進めなければいけないことだなと思っております。

これが創薬ベンチャーであればまだ、顧客ニーズよりもマーケットサイズで売上がよみやすく、投資がしやすいです。(そもそも研究開発に成功できるかの成功確度は医療機器より圧倒的に低い印象はあります。)また、バイオベンチャーは基本自分たちで売ることをせずに、開発フェーズが進んだら大手製薬会社に売ってしまうことが一般的です。

一方で、医療機器の場合は、顧客ニーズをいかに捉えているかが非常に重要です。(ニーズを作り出してしまう、保険点数がつくというケースもあるかもですが)

どの医療機器スタートアップを見ても、製品完成までには数十億円の資金調達が必要になります。最近はAIメディカルサービスがSoftbank Vision Fundから80億円の調達を発表するというニュースもありました。

資金調達をすると「わーすごい」となりがちですが、本当は資金調達はしないで済むなら、しないほうがいいんですね。もちろんフェーズやタイミングによって全然状況は異なるので一概に言えないですが、もし事業推進に必要な資金が自前で賄えるのであればその方がいい

でも医療機器をやるには世に出るまでに時間がかかりますし、研究や治験などの投資額も桁が違うので、なかなか資金調達なしで製品ローンチまで持っていくことは難しい領域です。開発に3-5年が当たり前の世界の中、時間がかかればかかるほど世の中も変化し、ユーザニーズも変わっていきます。今回のコロナなんてまさにニーズが大きく変化した典型例でしょう。

一方で、資金調達すればするほど、顧客ニーズが違ってたからピボットしよう、という意思決定もしづらくなります。なので、大型の資金調達をする前に本来は顧客ニーズの芯を捉えたいところです。

だから、最近医療機器やりたいと相談してくる方に対しては、あえて非医療機器/ヘルスケア機器として、まず世に出してみてほんとにニーズがあるか試してから確信を持てたら医療機器化に踏み切ろう、というアドバイスをすることも増えています。

こうした医療機器スタートアップの大きな課題に対して、このIDATEN制度が広く使われることによって、まずは一度製品を世に出してみて、顧客のフィードバックを得てより製品開発に活かしていくという流れが加速するといいなと思っています。

以上、今日は医療機器開発について書いてみました!また次回、楽しみにしていてください。

▼アジヘルさんの最近の仕事をまとめてみました!お仕事の依頼もこちらからどうぞ

 
4.17/5 (12)

良いと思ったら★をつけてください!

この記事をシェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

ブログの更新情報をフォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。