皆さんこんにちは!
すっかりお待たせいたしましたが、前回のオンライン医療保険の記事に続きまして、平安グッドドクターを取り上げてみます。
今回のニュースはこちらです。
平安グッドドクターはさる2020年12月、医薬品のサプライチェーン強化を目的にツムラの中国支社と提携したことを発表しました。
両社の事業概要
– 平安グッドドクター
– ツムラ
– ツムラの中国事業
中国における漢方医薬の現状
– 中医学と漢方の違い
– 中国における中薬、漢方市場
両社の事業提携内容
– 事業提携のメリット
平安グッドドクターと他社との事業提携
両社の事業概要
平安グッドドクター
本ブログにおいては、こちらの記事などで、オンライン診療サービスを提供する企業として平安グッドドクターを紹介してきました。
中國最大のオンライン診療サービスを誇る同社は、調剤薬局や医薬品会社を傘下におさめており、3.46億人の圧倒的な登録者数を背景に、2020年の上半期(6月末)時点で、ECサイトの売上は全体の約55%を占めています。漢方薬についても、処方不要の市販薬の場合「健康商城」というECサイトにて販売しているそうです。
中国平安というとオンライン診療というイメージが強いですが、実は医薬品ECの売上の方が高いということは驚きですね!
ツムラ
ツムラは1893年の創業以来、現在では医療用漢方製剤で国内で圧倒的シェア(80%)を確立する、漢方における日本最大手の企業です。
漢方を使ったことがない方でも、ツムラのパッケージに見覚えがある人は多いかもです。ある種のブランド化していますね。
※医療用漢方製剤:保険適用の漢方薬。
なお、日本で承認されている漢方薬には、一般用漢方製剤と医療用漢方製剤の2つがあり、後者は保険適用されているもの(2020年8月現在148処方)を指し、前者はそれ以外のもの(294処方)を指します。
生産金額で見ていくと、前者は全体の22%、後者が78%と、圧倒的に医療用漢方製剤のシェアが大きいことがわかります。
▼漢方製剤などの生産金額 p.6 薬用作物産地支援協議会の資料より転用
なお、ツムラによると、保険適用となる医療用漢方製剤に着目すると、その他医療用医薬品(保険適用となる医薬品全体)全体の1.5%程度だそうです。
医療用漢方製剤の市場自体はここ数年順調に伸びている中で、ツムラが高いシェアを維持していることがわかります。
ツムラの中国事業
ツムラは、中国事業においては2015年現在での漢方の原料の約8割を中国から輸入するなど、原料調達先、加工先としての役割が先行していましたが、近年中国国内での漢方の需要が高まるにつれ、中国向け商品の開発や流通にも力を入れてきています。
1980/90年代の中国事務所設立やグループ会社設立を経て、2016年12月には中国市場向け事業を統括する津村(中国)有限公司(今回の提携先)を設立しました。(津村(中国)有限公司は、それ以前にあった中国のグループ会社、深圳津村薬業有限公司、上海津村製薬有限公司を資本再編したものです)
その津村(中国)有限公司こそ、今回の平安グッドドクターの提携先です。
下記の図からわかるように、ツムラにおける中国事業の軸は、①生薬及び刻み生薬(飲片)の製造販売、②中成薬(日本で言う漢方)の製造販売、③研究開発の3つに分けられます。
▼ツムラ中国事業ビジョンのロードマップ(ツムラ2020年度第3四半期決算説明会資料)
なお、生薬、刻み生薬、中成薬の区別ですが、ツムラでは以下のように図示されています。
より原料の元の形に近いものが生薬、それを刻んだものが刻み生薬(飲片)、更に細かく顆粒や丸剤の形にしたものが中成薬や漢方といったところでしょうか。
ツムラでは、生薬PF、製剤PF毎に計画を策定しており、前者では2020年度時点で計画売上高2.4億元(40億円)、2027年には30億元(480億円)を目指しており、後者は2027年度に70億元(1120億円)を目指しているとのことです。生薬PFに関しては、第3四半期における平安津村薬業の売上が35億円と順調に推移しています。
総括して、国内事業はCOVID-19の影響を受けて業績は若干予想より低下したものの、中国事業は順調とのことです。
ツムラは、実は2018年にも生薬調達体制強化、中薬分析研究を目的として平安津村有限公司を設立しており、今回の津村(中国)有限公司との業務提携により、一層中国事業を強化したいという意図が伺えますね。
中国における漢方医学の現状
さて、漢方といったら、むしろ「中国が本家」では?というイメージを持つ人も多いと思いますが、中国における漢方医学がどうなっているかも見ていきましょう。
中医学と漢方の違い
まず、中国における漢方は日本における「漢方」とどう異なるのでしょうか?
Science Portal Chinaによると、中医学という用語が中国での伝統医学全般を指し、鍼灸、按摩、気功等の治療法が含まれ、中医学において処方される薬を「中薬」と呼びます。この中薬が、漢方を俗称されることがあります。
一方で日本における漢方は、5−6世紀から室町時代にかけて「中薬を用いる医学」を日本に持ち帰り、国内で発展、江戸時代頃に体系化された日本独自のもので、オランダから入ってきた西洋医学(蘭方)と区別する目的で「漢方」と呼ばれたのが始まりです。
現在日本における「漢方」というと、諸々の治療法というよりほぼ漢方薬のみを指します。
中医学は、陰陽・五行・臓腑等の理論に基づき、病状や経過を具体的に分析して治療方法を選択する「弁証論治」の考え方に則っています。
一方で日本の漢方は弁証論治を重視せず、古典にある処方に忠実に沿った治療が進められます。このように、中国と日本における「漢方」は、呼称こそ同じものの、その発展経緯も中身も異なります。
中国における中薬・漢方市場
中国における中医師(中医学を専門をする医師)は約27万人と、西洋医(西洋医学が専門)100万人に対して少なく、西洋医学に対して市場自体は小さいとされています。1949年以前は中医学が中心でしたが、その後西洋医学が導入され、幾度もの中医学の排斥、見直しを経て現在の割合に至っています。過去日本脳炎やSARSが流行した際にも中医学は西洋医学にまさる成果を上げたとされ、現在中国政府は、中医学を(西洋医学とは別の)正当な医学として認め推進するスタンスです。
行政による支援や昨今の健康ブームから、小売売上自体は順調に伸びていて、2016年にはパッケージ入漢方の売上だけでも1兆2300億円を記録しています。
日本における医療用漢方製剤の市場1583億円(2019年時点)と比べて、十分に大きな市場であるといえます。
また、こちらにもあるように、日本の漢方薬が中国国内でも人気を博していることを踏まえると、ツムラにとって中国の市場は魅力的に映るでしょう。
両社の事業提携内容
平安グッドドクターとツムラは、オンラインとオフラインの両方での提携を発表しています。
オンラインでは平安グッドドクター要する漢方薬部門の医師、ツムラ側の漢方薬専門家が協力してオンライン相談及び処方サービスの提供を、オフラインでは、平安グッドドクターの提携する薬局にQRコードを設置しており、来訪した患者はそれをスキャンすることで医師とのオンライン相談ができます。
オンライン、オフラインの垣根なく、患者との接点をうまく活用してサービスにつなげている例だと思います。
その他、生薬食品のニーズの高まりから、ツムラの開発した高麗人参、舒颜参茶、漢方錠剤を平安グッドドクターのオンライン及びオフラインのプラットフォームにて販売する等も予定しているようです。
事業提携のメリット
上記、提携が発表されている内容をざっと見ましたが、両社にとって今回の提携はどんな意味をもつのでしょうか。
まず、ツムラにとっては3.5億人に迫る登録者を持つ平安グッドドクターの流通網を介して、自社の漢方薬を中国市場に紹介するまたとない機会になるでしょう。
平安グッドドクターにとっては、ある種中国国内とは異なる発展を遂げてきた日本の漢方を代表する自社製品の販路拡大、そして中医学についての知見の獲得というメリットがあるでしょう。
平安グッドドクターと他社との事業提携
ツムラと平安グッドドクターは、2017年に資本業務提携を発表し、共同出資による合弁会社「平安津村有限公司」を設立しており、生薬の調達体制強化や分析にも力を入れています。
ツムラ以外に目を向けると、平安グッドドクターは、2020年10月には塩野義製薬との提携及びジョイントベンチャー「平安塩野義」の設立を発表し、患者目線でサービスを提供するプラットフォームの構築を目指し、製薬分野とのパートナーシップを強化していくとの発表もあります。
オンライン診療や医薬品EC販売サービスにより既に盤石な顧客基盤を有し、さらに製薬分野での提携を強める平安グッドドクターの今後に、引き続き注目していきたいところです。
ヘルステック業界最新ニュース12月号まとめ
⇒メディシスの医薬品ネットワーク事業に初の競合「Epark」が参入!
⇒平安グッドドクター×ツムラは中国の漢方市場を制するか?(本記事)
⇒DeNA×遺伝子サービスMyCODEが描く未来とは(準備中)
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