さて、今回はいよいよ9月号最後の記事、メドピアと日医工の合弁設立、および、kakari for Clinicについて考察していきます!
これまでのメドレー「Pharms」編、Amwell編も未読の方は、是非ご覧くださいね。
メドピアと日医工が合弁会社ニチメッドを設立
kakari for Clinicのサービス概要
– 機能
– 料金プラン
kakari for Clinicについて考察
– なぜ今クリニック支援サービスに参入したのか
– kakari for Clinicが解決する課題
– 競合と比較しての強みは?
– 今後の展望を勝手に妄想!
メドピアと日医工が合弁会社ニチメッドを設立
2020年9月10日に、メドピア、日医工が合弁会社ニチメッドを設立し、かかりつけクリニック支援サービス「kakari for Clinic」をリリースしました(https://medpeer.co.jp/press/8344.html)。
出資比率は日医工66%、メドピア34%となり、ニチメッドの社長はもともと日医工の営業本部DX事業推進部長を努めていた北尾太一氏が就任するとのことです。
両社は2019年11月12日時点で、kakariの拡販で業務提携は結んでいましたが、今回より強固な提携に踏み切ったようです。
▼メドピア、日医工と業務提携し、かかりつけ薬局化支援サービス「kakari」の共同拡販を推進
https://medpeer.co.jp/press/7182.html
なおkakariブランドは、もともとメドピアが調剤薬局向けのCRM支援サービスとして提供しており、スギ薬局全店への導入が決まっています(下記記事)
今回、新たな合弁会社は、そのkakariシリーズのクリニック支援版である「kakari for Clinic」を共同開発するということになります。
kakari for Clinicのサービス概要
まずkakari for Clinicのサービスについて、ざっと概観していきましょう。
機能
本サービスに搭載されている機能は、予定も含めて4つあります。
1. クリニックPR機能:かかりつけ医療機関から当該医療機関についての情報を受信出来る機能
2. 診療予約機能:かかりつけ医療機関又はkakari for Clinic加盟施設の診療予約をすることが出来る機能
3. 双方向チャット機能:かかりつけ医療機関に対し、双方向のチャットでのやりとりが出来る機能
4. オンライン診療(2020年12月初旬にリリース予定):これまで「first call for オンライン診療」として提供していたオンライン診療サービスも搭載予定です
機能詳細はこちらのサイトにまとまっていますので、ご覧ください(https://kakari-for-clinic.jp/#features)
料金プラン
料金プランは(Webサイトに記載ありますが)、まとめると以下のような料金体系となっています。なお、患者側の使用料は無料となっています。
1. かかりつけプラン
– すべての機能が利用可能
– 初期費用:9,800 円(税別) / 施設
– 月額利用料:9,800 円(税別) / 施設
2. フリープラン
– オンライン診療のみ(予約含む)
なお、フリープランは11/24にローンチされた新プランですが、こちらのプランでも、オンライン診療は従来どおり無料での提供となっており、そこからのフックにkakari for Clinicへのコンバージョンも狙っていそうです。
kakari for Clinicについて考察
なぜ今クリニック支援サービスに参入したのか
実は、これまでクリニックの経営支援/CRMサービスの領域は、特に他業界のSMB(スモールビジネス)向けの経営支援での成功事例をアナロジーして、非医療/ヘルスケア業界のプレイヤーがこぞって参入しがちですが、成功してこなかった領域です。
こうしたサービスが大きく流行しない理由はいくつかありますが、たとえばクリニックの予約は、緊急対応の必要のある患者などがあるので、事前オンライン予約による時間確約が難しいと言われたり、そもそも3年経てばほぼ黒字化すると言われるクリニックにおいて、集客支援をするほど困っているクリニックは多くなかったのですね。
ゆえにお金を払ってまでこういったサービスを使いたいクリニックは少なく、圧倒的勝者になるプレイヤーがいなかった領域です。
それが、COVID-19の流行によってクリニックの経営状況が大きく変わった中で、今こそが参入のタイミングだと見たと考えられます。
kakari for Clinicが解決する課題
さて、このkakari for Clinicで解決する課題についても考えてみましょう。
クリニックの経営はかかりつけ患者が支えていますが、再診率が低いと、患者が定着せず、経営が安定しません。再診率改善のためには、医療の質だけでなく、それ以外の面での様々な患者のペインを解決していく必要があります。
例えば、クリニックに行くのが面倒、待ち時間が長い(訪問前に予測できない)、電話での予約が面倒、再診日を忘れてしまったなど、自分自身の体験を振り返っても、思い当たる部分があります。
特に今はCOVID-19の影響もあり、クリニックでの待ち時間が長いと、感染リスクを恐れ、受診を控える人が多いです。
自分もいま舌下免疫で通っているクリニックが、CLINICSによる予約システムを入れてくれているので、直前でも美容院感覚でさらっと予約できて待ち時間もないので、めちゃくちゃ便利なんですよね。こういうクリニックが増えてくれるのはすごい助かります。
kakari for Clinicでは、患者にとって受診行動などの利便性が改善されることで、クリニックの経営課題が解決されていくという、患者とクリニック双方の課題がアラインされてて良いですね!
競合と比較しての強みは?
やはり気になるのは、競合サービスです。
そして、競合の本命になってくるのは、メドレーが提供するCLINICSでしょう。互いに、オンライン診療、診察予約機能はありますが、いくつかの点で異なる特徴を有していると思います。
CLINICSは、ユーザーとクリニックがN対Nのプラットフォームのような形を取っています。一方のkakari for Clinicには、”かかりつけ”というコンセプトがあり、ユーザーとクリニックを1対1の関係に近い体験を提供できると思います。
また、メドピアのkakariのほうが、よりITシステムに投資コストがかけづらい、中小/個人系クリニック向けという特徴もありそうです。
メドレーの「pharms」とメドピアの「kakari」は機能的にガチガチなライバルだと思ったけど、メドピアはスギ薬局以外は中小薬局がターゲットみたい
大手薬局に一気に導入決定したメドレー、中小薬局を攻めるメドピア
今後のシェア率を追い続けないといけない pic.twitter.com/xc2Jjz6X1M— 三島 賢太郎 (@kentarou_m2982) November 20, 2020
デジタル+アナログな販売マーケティングも強み
その販売流通方法についても着目です。
今回日医工と組んだことで、メドピアの得意なデジタルマーケティング的な広げ方のみならず、クリニックに対して日々接触を持っているMRによってサービスを広げていけるという点も面白いですね!
メドピア会員は約3.6万の開業医を抱えていますし、約300名のMRを抱える日医工の営業網を活用できることは、確実に強みになってくるでしょう!
メドピアの既存事業には、クリニックの開業支援事業もあるため、開業〜かかりつけクリニック化までの支援をシームレスに提供していけると、開業医からすると頼れる存在になっていくでしょう。
一方、メドレーとメドピアどちらも、薬局向けのサービスでもPharmsとkakariというサービスを有しているため、オンライン診療〜服薬指導というシームレスな体験という意味では、今後どちらが覇権を握っていくのか目が離せません!
▼参考過去記事
これまでクリニック向けCRM支援サービスと言えば、新患の集患や、経営指標や業務の可視化BIツールなどのサービスが多くありました(MTIのCLINIC BOARDなど)。しかし、市場が大きく動いた今、kakari for ClinicがLTVを伸ばすようなCRM支援サービスとして成功するかどうか、今後もウォッチしていきたいと思います!
今後の展望を勝手に妄想!
kakari for Clinic導入するクリニック経営者からすると、本サービスを導入・利用することによる費用対効果(再診率の向上、患者満足度など)が気になります。
今後、そういったファクトデータで、明らかに経営アウトカムが向上するといったことが示せると、導入件数は広がっていくイメージはあります。
ただ有料プランとはいえ、初期/月額9,800円では仮に1,000件のクリニックが有料プランを導入しても、月1千万円・年間1.2億円程度の売上インパクトしかありません
メドピアグループの狙っている世界としては微々たる売上かと思いますので、つまり、これ単体での収益化というよりは、ここからクリニック経営に入り込み、様々なアップサイドを狙っていくという方針になるのかなと思います。
専門医の紹介サービスや医薬品開発とのシナジーに期待
少しこうした展望についても妄想してみます。
日本医師会総合政策研究機構が2020年9月に出したレポート (https://www.jmari.med.or.jp/download/WP448.pdf) によると、かかりつけ医に求める役割で上位にある、「必要時に専門医や専門施設に紹介」「患者情報を紹介先に適時適切に提供」という部分が上がっています。
現在のkakari for Clinicは、あくまで利便性の向上などに重きが置かれた機能が多いですが、かかりつけクリニックの本来のバリューの拡張や支援という部分での、機能リリースや業務提携などが出てくると面白いなと思います。
例えば、「必要時に専門医や専門施設に紹介」「患者情報を紹介先に適時適切に提供」の役割を補助するD2Dサービスは面白いかもと思っています。妄想ですが、Medii (https://medii.jp/our-team/) のような専門医シェアのサービスとの事業提携とかが生まれてくると面白そうです。
また、せっかく製薬会社である日医工x製薬会社のデジタルマーケティングに強みを持つメドピアが一緒にやっているので、医薬品との開発/マーケへのデータ利活用の部分での展望も期待をしたいものです。
個人的には処方データなどがとれるわけではない中で、医薬品とのシナジーが読みきれなかったのですが、きっと何かそうした検討もなされているんじゃないかと思います。
さて、これで9月のニュースの紹介が完了となりました。
今回はメドピア の日医工との合弁設立、kakari for Clinicの考察について書かせて頂きました。10月ニュースも楽しみにしていてくださいね!
ヘルステック業界最新ニュース9月号まとめ
⇒メドレー編:「Pharms」をローンチ!オンライン服薬指導の勝者も近い?(https://healthcareit.jp/?p=5790)
⇒Amwell編:オンライン診療で上場! Amwellをがっつり紹介!(https://healthcareit.jp/?p=5918)
⇒メドピア編:日医工との合弁設立、「kakari for Clinic」を徹底考察(本記事)