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徹底分析エムスリー第3回:「m3.com」とは。知られざる最強の医療ポータルを分析する

皆様こんにちは田中大地です。

ありがたいことに、ここ最近ブログ見たとご連絡や感想を頂くことが増えており、多いときには1日に1人以上ご連絡を頂くことも続いておりました。

やはり同じ業界で意識高くやられている方とやり取りしたり、ディスカッションできることは非常に嬉しく、このブログを始めてよかったなと思います。

さて、ご連絡頂いた方の多くは最初にエムスリーの記事を見たという方が多いようです。

あまり情報がネット上にないため、「MR君」や「エムスリーとは」といったキーワードで検索順位10位以内に早速入ってきているので、そういった検索をされた方がご訪問頂きご連絡頂いているようです。ありがたや!
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さて、そういった事情もあり、久々に徹底分析エムスリーを更新してみたいと思います。本日は第3回ということで、m3.comとはというテーマで、知られざる世界最強の医療ポータルを研究していきます。

m3.comとは何かという表面的な考察ではなく、もし自分がm3.comを作る立場であればどうやって作るだろうかという視点を入れようと心がけました。そのせいで、またもやかなりの長文になってしまいましたがお楽しみ下さい。

m3.comとは

このあと理由は説明していきますが、世界でも類を見ない圧倒的に強い医療従事者(特に医師)向けサイトがm3.comです。

エムスリーの展開するプロダクト、ここでは収益を稼ぐ商品・サービスをプロダクトと定義しますが、すなわちMR君、治験君、QOL君、キャリアビジネス、その他ほぼすべてのサービスが、m3.comにおける医師の会員基盤に支えられています。

言い換えれば、m3.comという圧倒的に強いプラットフォームがあるからこそ、エムスリー社は次から次へと新規事業を生み出すことに成功しています。その意味で、まさにエムスリー社の屋台骨といえるサービスが、m3.comです。

m3.comの凄さをざくっとあらわすと、高いレベルの「量:医師会員シェア・数×質:ユーザーのアクティブ率・粘着性」ということができるでしょう。

量:国内の医師の90%が登録する世界に類を見ない医療従事者向けサイト

会員数を伸ばし続けてきたm3.comですが、現在約25万人の医師が登録していると言われています。

当然ユーザ数で考えることに意味は薄く、シェアで考えると、国内すべての医師が約30万人ですので国内に存在するうちの約90%近い医師がm3.comに登録しています

世界的にはもっとも名が知れているであろうWebMD社のMedscapeが、アメリカの医師の80%が登録していると言われますので、それを超えています。その意味で、まさにm3.comこそ、世界一の医療従事者向けサイトといえるでしょう。

なおm3.comにせよMedscapeにせよ、医師全体ではそれなりの人数がいるにも関わらず、高い会員登録シェアをとれているというのは、ユーザー特性にも理由があるでしょう。もともと理系で、ネットリテラシーが高い医師はネットサービスとの相性がよかったのだと考えられます。

さて決算資料から、会員数の推移(一部推定)を下記に表にしてみました。
会員数の増加と主力サービスであるMR君の相関性を見るために、MR君の導入クライアント数を並べています。

m3.com医師会員数とMR君利用社数の推移

この図から、2010年頃までは新規会員の獲得にも力を入れておりましたが、MR君の導入クライアント数への影響が小さくなってきたそれ以降は、手なりと言ったことがわかるでしょう。

会員数を増やすための施策として、私の知り合いの医師の話を聞いたところ、昔、m3.com登録前は毎月のようにエムスリー社から会員登録喚起のDMが届いたという話を聞いたことがあります。

医師のように、特定しやすく、人数もそこそこを対象にする場合は、昔ながらの手法にも思えますが、リアルDMやFAX DMが効きますね。
それ以外にもm3.comクレジットカード、すなわち医師専用クレジットカードが作れるなどをウリにして会員数を増やしていきました。

上記のような直接新規会員登録に貢献する施策は勿論ですが、やはり医師の生態を理解した魅力的なコンテンツ・サービスの提供がここまでの世界を実現したのだと思っています。

質:ユーザの高いアクティブ率と粘着性

m3.comの凄さは、その高すぎるユーザーシェアにとどまりません。

一定ユーザシェアが高ければ、そのアクティブ率は下がっていくというのが一般的な構造ではありますが、m3.comはその会員たちの高いアクティブ率と粘着性をも実現しています。

近年は公開しておりませんが、かつてエムスリーは自社の決算資料において、m3.comのサイト指標とログイントレンドを公開しておりました。下記が2006年10月決算資料から抜粋したその部分です。

エムスリー決算資料

ここから、m3.comのサイト指標を推定すると、2006年9月時点の月間PV数は3,000万PV、ログイン回数150万回となります。

当時の会員数13万人強でこの数字を作り出せたこと自体がすさまじいですが、20を超える平均ページ/セッションにも驚きます。

このブログのご覧の皆様には、自身もしくは自社でWebサービスを運営しているという方も多いと思いますが、そのサービスの会員アクティブ率やページ/セッションと比べてみればこの凄さはわかるでしょう。

ECサイトであれば商品比較や購入トランザクションのフローでページ/セッションは20-30くらいいくというケースもあると思いますが、メディアでいえば、通常ページ/セッションが2もあればすごいといった具合です。コミュニティサービスでも多くとも10といった印象ですので、m3.comはその実に10倍-2倍もの1訪問当たりのPV数を実現しているわけです。

また、仮に登録会員のうちアクティブ率を80%と仮定すると、下記のようにサイト指標がまとめられそうです。

m3.comサイト指標
ここで注目すべきはやはり月間の訪問回数14回というところでしょう。m3.comのサイト特性上、主に勤務先で使われるものだと想定されますので、出勤日の8割はm3.com訪問しているということになります。

m3.comは、まさに医師にとってのYahooやGoogleのような存在だということができます。

m3.comがあったからMR君が成功した?

ただし、プラットフォームが圧倒的に強いからMR君が成功したというのは僕自身は若干懐疑的です。

エムスリーの歴史にも書きましたが、実はm3.comの誕生よりも、MR君が生まれた方が先です。

私の推測では、一定MR君が立ち上がっていく中で、MR君メールの送付数に対して開封数がリニアに伸びていかなくなる点があったのではないかと思っています。

これは皆様も経験あるでしょうが、ユーザーの心理において「サイトからのメールを読む回数はそのプラットフォームの依存度による」と思っているんですね。

回数というよりは、マインドの問題ですが、よく訪問する好きなサイトからのメルマガは積極的に開封するが、そもそもサイトに訪問しすらしない所からのメルマガは開封しないと思っています。

MR君のビジネスモデルから考えると、「登録だけのゴーストユーザーが9割」ではプロダクトとして成り立ちません。会員シェアが高く、彼らの多くがアクティブであることが重要です。ここが単なるECサイトのマーケティングとは大きく違う所です。

で、その状態に到達したエムスリーが打った手がメール以外の部分でプラットフォームの依存度を高めることであり、そのソリューションがm3.comだったのではないかと考えています。

その証拠にエムスリーの昔の決算資料には、下記のような資料が含まれています。

m3.comのプラットフォーム成長

既読メッセージ回数とプラットフォームの数値を並べていますね。

最初はMR君一本をキラーサービスに、途中からプラットフォーム戦略に切り替えたと想定するのは妥当性が高そうです。
また、当時のこの選択があったからこそ、MR君の成長が鈍化している今、次やその次の事業が育っており、圧倒的な力強さで継続成長が期待されているといえるでしょう。

コンテンツ分析:MR君

さて、そのプラットフォームの中でも特に会員獲得、アクティブ率向上に貢献したと考えられるMR君、ニュース、コミュニティ、m3ポイント4つのコンテンツについて深堀ってみていきましょう。

まずはMR君からです。

プロダクトとしてのMR君は次回しっかり深掘って見ていきたいと思いますが、実はMR君はエムスリーにとっての最大のキャッシュポイントでありながら、それ自身が医師ユーザーにとっての一番のキラーコンテンツになっているのだと僕は思っています。

というのも医師は、その職務における義務のひとつとして、自身の取り扱う薬剤の最新情報を学ばなければいけないという決まりがあります。新しい適応追加に関するエビデンスの取得や、副作用の追加などといった情報ですね。
また自身の専門領域における最新の薬剤の承認状況なども知っておく必要があります。

これらが義務である以上、なんらかの方法で薬剤の最新情報を取得しなければならないのですが、基本的にはMR経由かインターネット経由かという二択になるわけです。

医師だって人ですから、若くてかわいい女性MRならまだしも、おじさんMRから製薬会社の作った堅苦しい資料でつまらない説明を聞くのはしんどいものです。

その点MR君は、ショートドラマ仕立てになっていたり、アニメになっていたりして、簡易に面白く理解できるようになっているわけです。
さらに利用すればポイントまで貯まるというのであれば、人気が出るのも理由はわかります。

ここがエムスリーの凄いところでもあるのですが、エムスリーの商品設計における基本思想として、MR君やQOL君、治験君といったマネタイズ広告そのものが、ユーザーにとって魅力的なコンテンツとなっていることです。

ここには、いわゆる広告=ユーザーの見たいものを邪魔して表示するもの、という考えはありません。

広告そのものが、エンドユーザーが利用したい/利用しなければいけないと思うコンテンツになっており、なおかつクライアントに効果を返すことができる、という状態になっているのです。

私はかつてリクルートでWeb広告の商品企画をやっていましたが、僕から見てもエンドユーザに提供する価値とクライアントに提供する価値を高い所でバランスすることに成功した、MR君はやはりある種の理想形だなと思っています。

Web広告にも関わらず、広告の最低出稿金額が1クライアントあたり1億円を超える由縁はそこにあるのです。このあたりの次回以降のMR君分析でもっと深堀っていきたいと思います。

コンテンツ分析:ニュース・医療維新

医師向けサイトのニュースと聞くと難しい内容なんだろうな、と想像する方が多いと思います。
しかし、海外の医師向けニュース最大手であるMedscapeなどと大きく異なり、論文をベースとした最新クリニカルニュース、医療研究はほぼ配信しておりません

実はm3.comのニュースは、「○○医師がナースにセクハラ」「あの病院が医療事故で訴えられた」、などといったゴシップニュースばかり配信しています。

当然エムスリーほどの企業ですので、こういったコンテンツの方が効果が高いということがわかってやっているのだと考えられます。

以前メドレーと日経メディカルオンラインのくだりでも紹介しましたが、日本はかねてより医局制が非常に強かったため、臨床に関する判断や薬の投与などは、所属する医局の指示を仰いだ形で行わなければならなかったのです。

そのため、自身で臨床に関する知識を学んだとしても、そこまで活用もできない、という理由もあり、クリニカルニュースが他国と比べ相対的に相性がよくなかったことが理由だと考えています。

このあたりは、エムスリーの大元であるソニーコミュニケーションネットワーク社はかつてMedscapeと提携して、海外のクリニカルニュースを配信していた経験もあり、日本ではダメだな、と経験に基づく所があるのでしょう。

医局の仕組みについては、ドラマ化もされた山崎豊子「白い巨塔」が理解しやすいので是非読まれることをおすすめします。

コンテンツ分析:Doctors Community (医師限定コミュニティ・掲示板)

最新ニュースに対する意見交換、診療相談、悩み相談がProfessional to Professionalでできるコミュニティサービス「Doctors Community」、もm3.comの人気コンテンツのひとつです。

実はm3.com自体は医師でなくとも医療従事者であれば会員登録・閲覧は可能です。ナースでもOKだったりします。実際薬剤師の会員数も10万人を超えているようですね。

しかしこのDoctors Communityの閲覧や書き込みを認証された医師会員だけに限定していることも利用を加速させたひとつのポイントかもしれません。

たとえば、治療法がわからないや転職したいなんてこと、万が一患者同じ職場の上司に見られてしまったら医師としての信用を失いかねませんが、このコミュニティでは、しっかりと認証された医師限定の匿名掲示板ということで、そういったやり取りを安全に行えるようにしています。

以前ある医師がDoctors Community上で、患者のカルテを写真であげたうえ、患者の態度を侮辱したことが、大いに問題になったことがありました。

それ以降、このような投稿はエムスリー社で審査して削除されていますが、こういった投稿があがったという事実それこそが医師がどれほどDoctors Communityに信頼を寄せているかを証明していると言えるでしょう。
http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/17352062.html

なおm3.comにおいて、医師であるかどうかの認証は医師免許をもとに行っており、勤務先への電話確認などもあるようなので、基本的に虚偽の登録はできないようになっています。

コンテンツ分析:m3ポイント

m3はMR君のコンテンツ閲覧や、サイト内ECやQOL君を通した予約購入などでm3ポイントという独自のポイントを付与しています。医師はこれらのポイントを集めることで、Amazonの商品券などに交換ができます。

m3ポイントは他のサービスのポイントと比べ、貯まりやすく(コンテンツを閲覧するだけで貯まる)、還元率も高いことが特徴です。

m3.comを語るときに、「医師をポイントで動かすだけのサイト」と揶揄する人が多くいますが、最も高年収な職業として知られる医師がポイントで動くなんて誰が思ったでしょうか?

少なくともm3.comを知る前であれば、僕が医師向けコミュニティを作ろうとしたときにポイントを入れようとは発想しなかったでしょう。ここがエムスリー社のまたしても凄いところだな、と思うわけです。

ちなみに、エムスリーはどのサービスがキラーになって成長を遂げたのか、と複数人でディスカッションをしてみると非常に面白い。みんな言うことが違うんですね。で、ポイントは自身の感覚に基づいて、絶対必要と言う人と、そんなもん絶対いらんという人に二極化するわけです。

ポイントの魅力は、ポイントに興味ない人にはまずもって理解できません。

実際に、たとえどんなに年収が高い人でも、時給換算したばからしくなるような金額のポイント集めをする人がいるのです。

僕もいかに多くのポイントを獲得するかを考えるのが大好きなタイプで、財布だけで2つ持っていて、カードも50枚持ってたりもします。

ネットでポイント集めをして、一日かけて2,000円獲得して、よっしゃっしゃっす。とか思うタイプなんですよね。楽しくて仕方ない。でもこれ時給換算したら200円とか?マックのアルバイトよりも安い。なんでもお金で解決しようぜという人には絶対に理解できないんですよね。

実情としては、ポイントに刺さった医師は多いけれども、すべてではない。で、コミュニティやニュースなど他のサービスも同様なのかなと思います。

NEWSPICKSのコメント欄で某医師ユーザーが「ポイントがm3.comを医師が使うたったひとつの理由だ」とコメントしていた医師がいても、それはその人がポイントに刺さっただけで、ポイントに一切興味なく医薬品のディテーリングに魅力を感じているユーザーもいるし、ニュースやコミュニティに刺さっている人もいるわけです。

だからこそ広くサービスを展開して、という発想も大切なのではと思うわけです。

m3.comもそういった形で成長してきたのでしょう。最終的にいまのポータルの形をとったものの、それまでの過程において、多数のサービスを追加して、終了してという多数のPDCAを回し続けてきた結果だと思うのです。

今のようにエムスリーに一定の知名度が出るまで、密かに、ここまで約10年の月日をかけて育ててきたこのm3.comがあるからこそ、未来の継続的な成長が約束されているわけです。現在はこの日本市場で得たノウハウをアメリカや中国といった海外プラットフォームの育成に応用しています。

最後に本分析をまとめた画像を一枚!
最強の医療ポータルm3.comまとめ

         
さて、今日もだいぶ長くなってしまいましたが、m3.comの分析はこのあたりにしておきたいと思います。長文ご精読ありがとうございました。是非ご感想など頂けると嬉しいです!→僕のFacebookはこちら
さて、次回は、いよいよMR君の考察に入っていきたいと思います。

【連載:徹底分析エムスリー】
第1回:エムスリーとは
第2回:エムスリーの歴史(MR君誕生まで)
第3回:「m3.com」とは。最強の医療ポータルを分析する(本記事)
第4回:製薬会社マーケティング支援事業「MR君」分析
第5回:医療プラットフォーム派生事業(1)「QOL君」分析
第6回:医療プラットフォーム派生事業(2)「治験ビジネス」分析
第7回:医療プラットフォーム派生事業(3)「Ask Doctors」分析
第8回:エムスリーの海外事業、中国・韓国・アメリカ
第9回:エムスリーは買いか!?エムスリーの株価を考える

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コメント

  1. 若杉 徹 より:

    田中大地さん、はじめまして!

    田中さんはシンガポールで働かれているのですね。エムスリーと言えば、SMSがMIMSのアジアエリアの営業権を買収して、シンガポールを中心にエムスリーみたいなことをやろうとしていますね。

    続編として、MIMSの状況を教えて頂ければうれしいです。

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