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日本アルトマークとメドピアが目指す医療業界のオープンID「medパス」について考える(Part2)

皆さまこんにちは、アジヘルさんこと田中大地です。

さて、前回のアルトマークの目指す共通DBの続きをいってみたいと思います。結構マニアックな話題でしたが、思った以上に多くの反応、メッセージ頂き嬉しかったです。ありがとうございます!

前回記事はこちら
日本アルトマーク社が進める医師の共通DB、DCFコードについて考える(Part1)

ちなみに前回ブログを更新したあとに、この業界共通DBやDCFコードのアジアでの実現可能性について考えてみたのですね。
で、より深く考えてみたときに、前回気づかなかったポイントとして、個人情報の観点もあったなと思ったのです。

ご存知の通り日本は個人情報の受け渡しにうるさい国のひとつであると思うのですが、この共通コードを利用すれば、このハードルを乗り越えられるのか!と思ったわけです。

つまりファイザーやGSKがこの医師にプロモーションしたい、とエムスリーに依頼する際に、本来は医師の名前など個人情報を含んだリストをエムスリーに提供するハードルがきっとあるはずなのです。

しかし受け渡しファイルが、DCFコードだけあればどうでしょうか。
ファイル自体は個人情報を一切含んでおりませんので、なんら規制に触れることなく、製薬会社のターゲット医師をエムスリー側でも狙い撃ちできるというわけです。

実際、製薬会社が保持している医師の個人情報をどれだけ尊重しているかはわかりませんが、これはひとつマーケティング観点として大きなポイントな気がしたので、ここにて補足します。

共通DBをアクティブにするためのアルトマーク社の2つの取組み

さて、では本題に入ります。

前回記事の最後で書いた通り、このような共通DBの課題は、常に最新の情報であることが求められるということだと思っています。

一方でDBを持つすべてのサービスの共通の課題ですが、保持している情報を常に最新にしておくことが非常に難しいわけです。
立ち上げ当初は、少数の製薬会社とズブズブの関係でやっていたはずなので、より身内感で製薬会社からも情報アップデートに協力的であったかもしれません。

しかしアルトマークのサイトを見る限り、現在データ提供先は200社を超えるようですし、製薬会社観点で考えると、ここに情報提供すること=敵に塩を贈ること、と考える会社もあるでしょう。ましてやエムスリーなどからすれば尚更です。

規模の拡大によるイノベーションのジレンマとも捉えられますが、結果としてアルトマーク社はできる限り自身の力によってDBを更新していかなければならなくなったのでは、と推定します。

そう考えると最近のアルトマークの積極的な動きの理由も少しずつ見えてきます。
彼らの取り組みを大きく分けると下記の2つとなるのではないでしょうか。

1.自身での医療従事者向け情報提供サービスを運営し、情報をアップデートさせる

まず1つめの取り組みとして、自社で医療従事者向けのサービスを展開することです。

自社のサービスにアクティブであること=コミュニケーションできる医療従事者が増えるわけですので、ただDBを持っていることより遥かに情報をアップデートしやすくなります。自社サイトに登録してくれてさえいれば、ポイントを振り出して、登録情報を更新してもらうといった手段が使えるようになるためです。

この背景から、医療従事者向けの医療新聞『Medy』というサービスを運営しています。

Medyサイトはこちら
https://news2.medy-id.jp/index.php

ただし、共通DBを運営し、かつメインの収益源である立ち位置上、提供するサービスは中立の立場をとることが求められるでしょう。
特定の製薬会社を支援するということは、構造上、同領域で医薬品を展開する別の製薬会社を敵にする可能性があるためです。(ここはアルトマークが構造的に抱える、大きな課題でもあると思っています。)

そのため、彼らのサービスは薬事日報などのような医療関連情報サイトのキュレーションサービスという立ち位置をとっています。横に並べるという意味で、中立性を担保しにいくわけです。

医療関係者向けの情報を並べ、検索機能を充実させるこのコンセプト自体には、医療の現場で働く方に対して一定価値はあるでしょう。

しかしながら、上記の特定の製薬会社支援のハードルが高いことから収益化には時間はかかるでしょうし、単なるキュレーションサービスとなってしまうと参入障壁を築くという観点では難しそうです。

2.オープンID構想

さらにアルトマークは、このMedyを利用するために必要となる「MedyID」を医療従事者におけるオープンIDにしていこうという構想を持っています。

つまり、MedyIDを利用して、各製薬会社らの医師向けサイトもログインができるようにしようじゃないか、という構想です。イメージ、「Facebookでログイン」みたいなやつですね。

各製薬会社は、法規制で、医療用医薬品の情報提供を医師にしか行えない/競合にどんな情報提供しているか見せたくないといった理由から、医師に対してログイン認証を必要とするサイトを、特に力を入れている医薬品について作成しています。

ただ、医師の視点でいうと、各製薬会社からログインID、パスワードを発行されるのは非常に煩わしく、ID、パスワードなんて覚えてないよ、という話になるわけです。

その意味で、1つのIDで各社のサイトが横断的に利用できるようになれば、ユーザー視点では非常に嬉しいはずですし、業界全体としては価値は高いはずだと考えた、これがMedyオープンIDの思想です。

MedyIDのイメージとしては下記の医薬品サイトのようになります。

アリセプトログインページ
※エーザイ、アリセプト医師向けサイトログインページより

これにより、製薬会社や他社の医師向けサイトで医師が情報アップデートすれば、アルトマークとしても情報取得できますし、広範に利用されればMedyIDやMedyのサービス価値を高めることにも繋がるはずです。
中立的な立ち位置を目指す企業の戦略として良さそうです。

MedyIDの導入は苦戦?

ただ、このオープンID構想は苦戦したのではと推定できます。

下記は2015年における国内医療用医薬品の売上高ランキングTOP10ですが、それぞれの医師向けサイトを見てみると、MedyIDでログインできるサイトは、売上1位のソバルディ/ハーボニーの医師向けサイト1つのみでした。(それでも売上1位を抑えられているというのは凄いことですが)

なお、オープンIDの仕組みは提供していないにも関わらず、エムスリーのリンクがあるサイトは2つありました。

2015年度国内医療用医薬品売上ランキングとMedyIDの導入有無

導入に苦戦した理由はいくつかあるでしょうが、まず、容易に推定できる理由が、システム開発投資の部分でしょう。

製薬会社サイトの作り方によって、難易度は変わってくるとは思いますが、これまでと違うIDの形式を受け入れるためにはシステム開発は必要になってくるはずです。製薬会社にとってはその投資価値があるのか、というところがひとつの論点となることは推定できます。

この投資判断を行う際に、MedyIDの強さ、魅力は大きな検討材料となったでしょう。製薬会社自身も医師がログインしてくれない、という共通課題はあるはずでしょうし、ここが解決されるならばオープンIDの思想自体は一定共感も得られるはずです。
しかしながら、そもそも元となるIDが弱ければ、システム投資に見合うのか、という観点で引っかかってしまいそうです。

製薬会社の気持ちからすれば、導入する前にもう少し強いIDにしてきてよ、とか、他の会社連携したらうちもやるよ、という話となるでしょうし、一方でアルトマーク側からすればIDを魅力的にするために製薬会社の連携を増やしたいん
という状態になっているのではないでしょうか。
まさに鶏卵の世界ですが、実際ここがなかなか難しいわけです。

そして別の理由として想定されるのは、製薬会社が他社に情報を受け渡したがらないという点もあると推定されます。
ここは同じようにオープンID構想を進めるFacebookIDを、GoogleやAppleが採用したくないといった理由と構造的には似ているはずです。

自社が強ければ強いほど、他社に情報は受け渡したくないでしょうし、他社のサービスはできる限り利用したくないということですね。
さらに、エムスリーという非常に強いプラットフォームがある以上、一部の利用企業は、情報提供は自社サイトでなく、エムスリーで中心にという流れにもなっているでしょう。(edetailing→vdetailingへの流れですね)

アルトマークとメドピアの新たな取り組み

そこで、少し戦略をピボットし、より医師に利用されているメドピアとの連携を発表しています。
一緒に会社を作り、まずメドピアIDとMedyIDを共通化し、その新IDを現在のMedyIDの代わりに、広く製薬会社のオープンIDにしていこうという構想です。

medパス概要
※画像はアルトマーク社プレスリリースより

アルトマーク51%、メドピア49%による出資(資本金1億円)で、「medパス」という社名にて、この10月に新IDサービス、medパスのローンチを予定しています。

ググって見たら、コーポレートサイト、ローンチしておりました。
https://medpass.co.jp/index.html

この提携で少なくとも、医師10万人を会員に抱えるメドピアの医師会員が使う可能性を持つため、共通IDとしての魅力はぐっと向上するでしょう。先の1つめの課題解決には繋がってくるでしょう。

また先のアルトマークの中立であることが求められる立ち位置上、より特定のクライアントの色が付きづらい会社としてメドピアを選んでいます。

ここは、ぐるなび型か食べログ型かの議論ですね。
「ぐるなび型」のエムスリーと連携してしまうと、第一三共、GSKやイーライリリー、MSDといった彼らのビッグクライアントの色が付きやすくなってしまいますし、アルトマークとの相性は悪いはずです。

一方でメドピアは石見社長も、「医師の食べログを目指す」と公言しているとおり、ユーザー寄り添い+中立の情報提供をミッションとしている会社ですので、アルトマークとの相性は良さそうです。

メドピアとしても、自社のIDが医療界のオープンIDとなることができれば、メドピアIDの価値が一気に向上し、会員数の増加やアクティブ率の向上、製薬会社とのシステムレベルでのネットワーク強化と様々なメリットが考えられるので、うまく戦略が決まれば大きな一手になりそうです。

まだまだ、具体的な動きや提携先は明らかになっていないようですが、このアルトマークとメドピアの今後の動きを楽しみに、定期的に追っていければと思います。

※なお上記は僕の理解でしかないので、間違いや過不足があると思っています。きっとメドピアの方もこのブログは読んでいただいていると思っているので、是非ご指摘いただけると飛んで喜びます!

▼最新号の「Forbes Japan」はヘルステック特集!関係者必読です!メドピアの取り組みも色々紹介されてました。

■前回記事はこちら
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