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「ホームズ介護」を運営するネクスト社が介護施設紹介サイト一括管理システム「KIND」を提供開始。その狙いは?

「ホームズ介護」を運営するネクスト社が介護施設紹介サイト一括管理システム「KIND」を提供開始

皆様あけましておめでとうございます。年末年始は日本に帰ってのんびり過ごしました。
個人的な昨年の振返り的なやつを簡単にもうひとつのブログの方でアップしてますので、よろしければ!(映画の話メインですが・・・)

さて、今日は個人的に注目している、こちらのニュースについて考えてみましょう。
株式会社ネクストの子会社が介護施設紹介サイト一括管理システム「KIND(Kaigo Information Network Database)」を提供開始
プレスリリースはこちら

KIND商品紹介サイトはこちら

IT業界以外の方はネクスト社と聞いてもぱっとわからない方も多いかもしませんが、『HOME’S/ホームズ』といえば、聞いたことない方はほぼいないでしょう。

不動産情報では、『SUUMO』と並んで有名ですね。

なんとこの一年間で時価総額を3倍も伸ばしている飛ぶ鳥も落とす勢いで伸びている会社です。2015年初の時価総額が653億円が、現在1,700億円超ということですので、信じられない勢いですね。

知らなかったのですが、ここの社長の井上高志氏も元リクルートなんですね。ネクストが楽天と組んで、SUUMOに少しずつ追いつているというのも、、ある種健全な業界構造です。ちなみにHOME’SとSUUMOは知名度としては同じくらいの印象ですが、ネクスト社とリクルート住まいカンパニーの売上は約4倍*も違います。
*ネクスト社241億円(2016年3月期予想)、リクルート住まいカンパニー839億円(2015年3月期)。

なお、同社は医療・介護・ヘルスケアIT領域では、『ホームズ介護』というサービスを運営しており、こちらも介護施設の紹介サイトでは、他社の追随を許さず、圧倒的ナンバーワンとなっています。
会社のイメージとしては、Webマーケティングに非常に強く、マッチングモデルで他社よりも効率的にエンドユーザーを集めてくることに非常に長けている印象です。

一括管理システムは旅行業界が一番進んでいる

このニュースを見たとき、ついに介護業界にもこの流れがきたか、と思いました。

というのも、このあたりの紹介サイトへの情報提供を一元化する管理システムは、実は僕がいた旅行業界(ホテル・航空券)が一番進んでいるんですね。

旅行業界では、ある程度の部屋数を持つホテルや旅館であれば、かなり高い確率でこのような在庫管理システムを入れています。いわゆる、一般の方が名前聞いたことあるようなホテルであれば100%利用しているといっても過言ではありません。

さて、このような在庫一括管理システムが生まれる理由について簡単におさらいしてみます。

ある業界において、いわゆる予約・購入・紹介サイト/会社/エージェント(以下AGTと呼びます)の数が多ければ多いほど、そこに情報を掲載している施設・店舗側がひとつひとつを管理しなければならなくなるので、業務負荷は上がっていきます。

ホテルでいうと上記のようなAGTに加えて、自社予約や飛び込みなんて経路もあってしっかり管理しないと、部屋がないのに予約を受けてしまうOB(オーバーブッキング)が発生してしまいます。OBになったときの悲惨さはそれはもう・・・という状態です。楽しみにしていた彼女との旅行、現地にいったら、旅館のミスで予約がとれておらず、部屋も一杯ですと言われたときのことを想像をしてみてください。激おこぷんぷん丸ですよね。

で、これを避けるためには、常に最新状況の残室数を各サイトに載せておかないといけないのですが、これがまた大変。

たとえば、じゃらんでひとつ予約入ると、速攻契約している他のAGTの管理画面にログインして、1室減らして、一部のAGTにはFAX送って、施設の予約担当には、1室減ったよ、と伝えて、なんて運用をしなければいけないのです。

で、このような残室管理の業務負荷が増えるので、施設側としては、たとえ売上が上がっても、新規のAGTと契約をしないという発想になるわけです。

これをテクノロジーで解決しているのが、在庫一括管理システムですね。このシステムを入れておくと、たとえば、じゃらんで予約が1室はいったら、API連携などで自動で他のAGTの残室情報を更新してくれるのです。こうなれば、管理の負荷が増えないため、施設・店舗側は躊躇なく、新規AGTと契約ができ、機会損失を減らしていける、というわけです。

このような仕組みのため、AGTの数が多ければ多いほど、在庫一括管理システムは価値が上がっていくわけですね。

ちなみに旅行業界における在庫一括管理システムは、リクルートとJTBの合弁会社である「TL-リンカーン」と、「TEMAIRAZU」で2強となっています。

導入件数を調べてみましたが、
TL-リンカーン 3,600件
TEMAIRAZU 2,000件

*2016年1月調べ
とのことです。

それ以外にも同様の一括管理システムを提供している会社は有象無象とありますので、10,000件程度の宿泊施設では導入されているのではないでしょうか。全国の宿泊施設が40,000件程度(かなり怪しいのも含まれそうですが)となっていますので、25%程度が導入していると言えそうです。

一括管理システムは介護業界で根付くのか?

僕はこのニュースを見て、ついに介護業界にもその流れ(の走り)が来たのかなと思いました。

<介護施設一括管理システム「KIND」の仕組み>
KIND
*画像はプレスリリースより

「KIND」の商品紹介サイトを見る限り、施設情報のみで、在庫までは管理対象としていない?ようにも見えますので、まだ走りという書き方をしました。

現在の市場の状況としては、介護施設紹介サイト自体は徐々に増えていますが(最近だとリクルート住まいカンパニーも参入しましたね→SUUMO介護)、施設入居者は一回入ってしまえばそう簡単に入れ替わりは発生しませんので、そこまでトランザクション数(問い合わせ数、入居数)が多くなく、在庫管理システムの相性はそこまで高くないように見えます。IT化の流れもまだまだかな、という印象です。

ただ、大概こういうものって、いきなり流行りますからね。
たとえば、僕がリクルートいた3,4年前とか、ホットペッパーの部署で、飲食店領域で予約サイトが流行るわけない!とか真面目に言われてましたもん。

これって飲食店って明確な座席がない(宴会とかのたびに座席を変更する)ので、ホテルと違って在庫登録なんてできないから、オンライン予約は根付かないという話ですね。

それがわずか数年後のいまでは、ホットペッパーグルメのオンライン予約件数は、2014年で2,529万件のオンライン予約件数で、さらに伸び続け、2015年4-7月は3か月間で1,458万件の実績*のようです。すごい勢いの伸び方ですね。
*株式会社リクルート決算説明資料より

僕個人の行動としても、いまでは食べログ予約が飲食店予約の6割を占めてます。
(シンガポールだとリクルートが約300億円で買ったQuandoo使ってます。Quandooはもともとヨーロッパの会社ですが高級飲食店の予約ではシンガポールでもナンバーワンですね)

この流れですと、そろそろ、飲食領域で在庫一括管理システムも出てきてもおかしくはなさそうですね。

さてさて、なんか話がズレそうになってきましたが、更に「KIND」について更に考察を深めていきます。

なぜネクスト社がリスクがあるはずの一括管理システムを提供するのか?3つのシナリオで考える

さて、ここまでの話をしていて、察しが良い方は、下記のような疑問が浮かんだ方もいるかもしれません。

「なぜ介護施設紹介サイトでナンバーワンの『ホームズ介護』を運営するネクストが一括管理システムを提供するのか?」

上記でお伝えしたように、このような一括管理システムが流行ると、施設・店舗側が予約・紹介サイトと新規契約をしやすくなるわけです。

つまり、紹介サイトとして、圧倒的ナンバーワンのポジションをとっているネクスト社にとっては、下手にこのような一括管理システムが流行ると、参入障壁を下げるため、マイナスに働く可能性があるというわけです。

新規で介護施設の予約紹介サイト立ち上げよう!と思ったら、KINDと連携するだけで、一気に介護施設の情報がとりにいけてしまうわけで、参入がとても簡単になるわけですね。

当然競合が増えれば相対的にホームズ介護の介護施設にとっての価値は下がっていきます。
商品サイトによると、既に30社の紹介会社と連携しているとのことですので、最初からホームズ介護にとってはリスクとなりうるわけです。

いったいなぜこんなリスクをとるのでしょうか?
で、結論から言うと、ネクスト社が何を狙っているのか、僕にもわかりません。
・・・ただそれで終わらせるのもあれなので、いくつかネクスト社の狙いについて推測をしてみたいと思います。

1.KIND単体で収益化を狙いにいっている

まずオーソドックスなケースとしては、KIND単体で事業収益を狙っているケースですね。
現在の価格設定を見ると、KINDは、介護施設と紹介会社から両手取りのビジネスモデルを採用しています。

商品サイトを見ると、介護施設側からは、1棟当たりシステム利用料3,000円/月、CSV/API連携をすると追加で3万円/月*、紹介会社からは、システム利用料3,600円/月(年36,000円)、CSV/API連携30,000円/月の価格設定となっています。
*ちょっとCSV/API連携しないという状態がどんな状態なのかわからないのですが・・・僕の予想では、チェーン系の介護施設が参画する場合、API連携はまとめてチェーンまとめて1つで良いとかなんですかね?

ここから、将来の売上を予測してみましょう。

まず施設側からの売上です。
前提として、介護施設のタイプは大きく分けて4つあります。
有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、特養、グループホームの4つですね。

後者の2つは、どちらかというと公共機関に近く(ほんとは違いますが、わかりやすいニュアンスで説明します)入居費なども安いため、そこまで広告宣伝費が出ません。そもそも放っておいても常に満室いっぱいなので、コストをかけてまで集客という発想になりづらく、収益基盤となるメインクライアントにはなりづらいんですね。

前者2つからしか広告宣伝費が出ないとして、現在の件数を見てみると、およそ有料老人ホーム7,000棟、サ付6,000棟となっています。

そのうち、旅行業界と同じ25%の施設が、将来本サービスを利用するとしましょう。

仮に1棟あたりの導入平均単価が5,000円とすると、
有料老人ホーム1,750(7,000件の25%)×5,000円/月=875万円/月
サ付1,500件(6,000件の25%)×5,000円/月=750万円/月
合計で年間約2億円の売上です。

次に紹介会社側からの売上を見てみましょう。
現在30サイトと連携済みとのことですので、一旦この売り上げを計算すると、
システム利用料3,600円/月×30サイト=108,000円/月
CSV/API連携利用料30,000円/月×30サイト=900,000円/月
合計で年間約1,300万円の売上です。

あわせても年間2億円強。
もちろんネクスト社は楽天仕込みの「値上げ」が得意技ですので、この程度で落ち着くことはないと思いますが、ホームズ介護も毎年40%成長とかで伸びているようですので、ネクストほどの企業がリスクをとって、数年かけてやるには少し規模が小さすぎるように見えます。

2.短期的なリスクをとっても、介護施設の入居経路のオンライン化率を増やすことを狙っている

さて2つめのシナリオです。
ちょっといいデータは見つからなかったのですが、これまで介護施設の方と話した感覚では、
介護施設の入居経路における「ホームズ介護」をはじめとしたオンライン比率は10%程度ではないかと思っています。

実は介護施設の入居経路はケアマネからの紹介や、病院の地域連携室からの紹介からという経路が多いのですね。で、各介護施設も販管広宣費の多くを、ケアマネや病院への営業コストに使っている状態です。つまり全体の90%の市場をホームズ介護は触れていないということです。

ここから予想されるシナリオが、今後の更なる成長のために、他社の力を活用してでも、介護施設の集客構造を変えにいこう、というものです。介護施設の入居経路のオンライン化率が一定までいけば、施設側も集客のための予算配分を大きく変える可能性が高いからです。

ある意味ネクストとしては、短期的に現在の市場の競合を増やすリスクをとっても、残りの90%の市場のリプレイスをした方が、将来的な果実が大きくなるのではないかと踏んでいるのではと思っています。

かつて、じゃらんと楽天も、圧倒的な強敵であるJTBを倒すために、オンライン率を増やす、という同じような戦略をとりました。いまでは、JTBを逆転してますね。

3.他社紹介サイト経由からの問い合わせ/成約からも売上獲得を狙っている

これは僕だったらこうするのではないか、というシナリオの話です。

介護施設紹介サイトのような、参入障壁が低い業界は、競合が増えるにつれて、基本掲載料無料、成約課金の方へ均質化していくものと思われます。現在のホームズ介護は基本掲載料金月1万円という広告掲載モデルですが、ここも将来にわたって変わらないとは思えません。(現在の状況ではむしろ値上げが正だと思いますが。)

であれば、先んじて安価で一括管理システムを広く普及し、施設側、紹介サイト側にKINDなしではまわらない、という状態を実現します。
あとは、ネクストお得意の値上げでもいいですし、できれば問い合わせ/成約課金で一括管理システムとして双方から、手数料ビジネスを仕掛けたいところです。「KIND」のペネトレーションを施設・紹介会社双方で高め、ホームズ介護以外の経路で問い合わせが入ってもトランザクションでお金が入ってくるという世界が作れれば、ネクスト社は介護施設の集客支援領域で立ち位置を更に盤石にできそうです。

さて、文字数6,000字近くと、ちょっと疲れてしまいましたので、今日はこのあたりで終わりたいと思いますが、
最後に、少しビジネスとは離れますが、認知症領域を見てきた僕自身としては、終の棲家である介護施設を自分、あるいは家族が選ぶということは、とても良い世界だと思います。できれば認知症発症前に、自分の意思で住みたい場所を選ぶ、そんな世界を実現する意味でも、ネクスト社はじめ介護ITで事業展開する各社の今後の展開を楽しみにしていきたいと思います。

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